戦時中の徴用工をめぐる問題で、韓国の司法が日本企業に賠償を命じる判決が確定してから2年が過ぎた。

 この間、政府間の対立は改善しないどころか、いよいよ危うい事態が迫っている。

 司法が差し押さえた日本企業の資産について、現金化を命じる可能性がある。そうなれば、日韓関係は一気に険悪化する。

 司法判断までの時間は、残りわずかといわれる。両政府はこれ以上、関係をこじらせないよう、危機感をもって協議を加速させねばならない。

 韓国側では、文在寅(ムンジェイン)大統領がかねて「被害者中心主義」を唱え、元徴用工らの救済に比重を置いてきた。かたや日本側は、被告企業に損害を生じさせないことを最重視している。

 双方が優先する点を尊重しつつ落着点を探る、外交の知恵が問われている。文政権はこれまでの硬い姿勢を改め、双方が受け入れられる具体策を速やかに示す必要がある。

 この問題をめぐっては先日、局長級の会合が開かれた。進展は伝えられていないが、対話を深めることが欠かせない。

 日本側は昨年、韓国に行動を迫ろうと、輸出規制の強化に踏み切った。だが、これは双方の経済活動を妨げる悪手だった。韓国側はいまや貿易制度の改善も施した。輸出のルールは以前の状態に戻すべきだ。

 両政府の冷えた関係が長引くなか、民間交流も滞っている。政治が判断を誤ると、いかに市民の生活に暗い影を落とすかを学習させた2年だった。

 日韓は多くの対外的な問題を共有する隣国でもある。

 米軍の駐留経費をめぐる対米交渉をどう決着させるか、米中対立の激化にどう対処するか。そうした難題について個々に行動するよりも、情報を交換して連携する方がずっと得策だ。

 他方、近隣国ゆえに生まれる課題も尽きない。

 韓国の最近の世論は、日本の原発事故で発生した処理済み汚染水の扱いを注目している。日本政府は海に放出する方向で調整しているが、韓国側では懸念が強まっている。

 新たな摩擦を抑えるためにも必要なのは、不断の意思疎通だろう。日本政府は韓国側が望む情報の提供など、不信を取り払う努力を尽くすべきだ。

 韓国では年内に、日中韓の首脳会談を開く準備が進められている。だが日本政府内では、徴用工問題の進展がない限り、出席は難しいとの意見がある。

 北朝鮮問題をはじめ、北東アジアの懸案は山積している。日中韓の今後を考える大局的な首脳対話を滞らせることがあってはならない。

朝日新聞デジタル 2020年11月4日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S14682794.html