■解明された慰安婦団体の実体
 
5年前の12月28日、当時の日韓外相は、日韓間の慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した。長年の遺恨は解決に向かうかと思われたが、さにあらず。その後に大統領に就任した文在寅がこれを反故にした状態が続いている。

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これまで韓国社会で「慰安婦」は疑念を挟んだり、問題視したりなどができない“聖域”だった。無条件に正しく、無条件に支持しなければならない存在で、数十年間に亘って大金が集まった。2020年5月、その聖域が破られた。

慰安婦被害者の支援を標榜し、日本政府に謝罪を要求してきた正義記憶連帯(以下、正義連)。そして、正義連の前理事長で政権与党・共に民主党所属の尹美香(ユン・ミヒャン)議員が、寄付金を流用してきた疑惑が提起されたのだ。

韓国内で有名な慰安婦被害者の李容洙(イ・ヨンス)さんが、5月7日から2度にわたってその事実を暴露した会見が、韓国社会を揺るがした。李容洙さんは正義連と尹美香議員が慰安婦を支援した美談は捏造であり、慰安婦を利用して得た多額の寄付金を流用して私腹を肥やしたと訴えた。

対する正義連は「李容洙さんは92歳の高齢で、記憶が曖昧なようだ」と述べ、与党・共に民主党は「正義連と尹美香への攻撃は親日派の工作」と主張。

韓国の左翼政治家から絶大な支持を受け、安倍内閣を非難してきた世宗大学の保坂祐二教授は「すべてを尹美香のせいにするのは日本の右翼とかわらない」とし、政治的な問題として取り上げるほどではないと“評論”していた。

一方、メディアの視線は正義連と尹美香議員に集まった。慰安婦に対する寄付金を尹議員の個人口座で受け取っていたことが明らかになったのだ。慰安婦被害者の休息空間にする名目で寄付金を募り、それを原資として購入した住宅を増築してペンションを経営し、尹美香が私腹を肥やしていたことが判明した。

また、正義連は政府から支給された補助金3億ウォン(1ウォン=0.094円)の内訳を会計帳簿に記録せず、集まった寄付金のわずか3%のみを慰安婦支援に使っていた。慰安婦被害者が依然として貧乏だと知った国民は、さらに憤った。

検察が捜査に乗り出し、尹議員を横領や背任、詐欺など8件の容疑で起訴したが、尹議員の横領と背任額は8億5000万ウォン以上、寄付金に関する法律違反は42億7000万ウォンに達している。

■慰安婦問題が解決されると

ちょうど5年前の2015年12月28日、日韓両政府は、慰安婦問題で合意に達し、「最終的かつ不可逆的な解決を確認した」と宣言した。

日本側代表の岸田文雄外務大臣は会見で、「当時の軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」と謝罪を述べ、日本政府は10億円を拠出して元慰安婦に補償金を支給すると発表。

ところが2017年5月、朴槿恵前大統領の弾劾の後を襲った文在寅大統領は、安倍晋三前首相と行った最初の電話会談で「韓国国民は受け入れられない」と合意破棄を示唆した。実は、文大統領のこの非常識な判断の裏にも“彼女”の存在があったのである。

日韓合意で、日本が拠出する10億円のなかから、生存していた慰安婦被害者47人が1000万円ずつ支給を受けることになったわけだが、実際に受け取ったのは、34人のみだった。

これも李容洙さんの暴露でわかったことなのだが、尹美香議員や慰安婦支援団体が、補償金を受け取らないよう慰安婦らに働きかけたのだ。金銭の受け取りを望んだ人もいたのに、である。

田裕哲(チョン・ユチョル)日韓関係、韓国政治担当ライター
週刊新潮WEB取材班編集 2020年12月28日掲載
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12280731/?all=1
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