「貴社、御社、弊社はそれぞれ何が違う?」

 「貴社は書く時に、御社は話す時に(使い)、弊社は自分の会社のことです」

 講師の問いかけに、20代の男女1人ずつがこう答えた。学生街の一角で毎週土曜の午後、日本人講師が10人程度の就職活動中の学生らにエントリーシートの書き方や就活に必要な知識を教えていく。日本企業に就職するためのよくあるセミナーの風景だ。私も7年前に受けたことがある。

 ただ、ここはソウル。受講生は全員韓国人だ。近年、日本への就職を希望する学生が急増していると聞き、私は2020年12月、ソウル市新村で日本への就職あっせん事業を行う「KOREC」を訪れた。KORECでは、韓国人就活生たちに日本企業の採用情報を提供したり、就活に関する教育などを行ったりしている。

 韓国産業人力公団によると、15年に韓国から日本企業に就職した人は632人だったのに対し、19年は2469人と4倍近く増加した。徴用工問題や日本の対韓輸出規制などで両国関係は国交正常化後最悪と言われているうえ、20年は新型コロナウイルスの感染拡大で両国の民間往来は激減した。それでも日本への就職希望者は減っていないという。

 なぜ韓国人は日本への就職を目指すのか。就活生を取材すると、韓国の厳しい競争社会と日韓の就活事情の違いが見えてきた。

 ◇競争の激しい「スペック社会」

 KORECは、代表の春日井萌さん(29)が17年に事業を立ち上げ、19年に法人化した。法人化以降、KORECのセミナーを受講した就活生は約200人に上り、延べ300人以上の内定を出している。

 私が見学したセミナーは約2時間で、就活初心者を対象にした入門講座だった。生徒に書いてきてもらった自己PR文を参加者同士で添削しあったり、講師が就活における重要単語を解説したりした。講師の説明や、生徒が書いてきた自己PR文はすべて日本語だ。現在ソウルに留学し、韓国語の勉強に四苦八苦している私は学生たちの語学力の高さに驚くばかりだった。だが、みんなどこか不安げだった。

 セミナーを受け終わった学生たちに話を聞くと、「とにかく就職するのが大変。(韓国では)3〜4年就活するのは普通です」というのだ。確かに、18年の大学生の就職率は64・2%にとどまっている。調査方法が異なるため単純な比較はできないものの、日本の98%(20年春卒業)と比べるとその低さが際立つ。

 背景として、参加者全員が口をそろえて大変さを語ったのが「スペック」の存在だ。韓国で就職するには自分の能力を示す資格や経歴が必須で、それらを総じてスペックと呼んでいる。韓国は日本以上の学歴社会であるため、まず大学名が重要になる。そのうえで▽TOEIC800点以上、文系なら900点以上▽コンピューター活用能力試験▽韓国史に関する国家試験を持っていること――がマスト。最近は中国語検定「HSK」をとる人も多い。

(略)

韓国産業人力公団の統計をみると、前年と比べても19年の日本での就職者数は1.4倍に増えている。KORECの春日井氏は、「日本企業の不買運動が起きた時は採用企業が少し減り、学生も日本企業の就活をしていると言いにくい雰囲気はありました。しかし、やはり国内の就活が苦しいので、そうは言っていられないのでしょう」と就活生たちの気持ちを推察する。

全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/a23d29ffe1d1116cc24e46c3ea35c0c31aae92bb