平成23年3月の東日本大震災から間もなく10年となる。当時、東京電力福島第1原発の事故を受け、54カ国・地域が日本産食品に対する輸入規制に踏み切った。新型コロナウイルスの感染拡大の中、“巣ごもり消費”などで農林水産物輸出は増加傾向にあるが、消費量の多い中国や韓国など15カ国・地域は規制を継続したままだ。

 政府は二国間会談や国際会議などさまざまな機会を活用して働きかけを行ってきており、これまで39カ国・地域が規制を撤廃した。

 菅義偉(すが・よしひで)首相も昨年10月の東南アジア歴訪の際、インドネシアのジョコ大統領に撤廃を求めた。首相は官房長官時代から農水産物輸出に力を入れており、外務省関係者は「会談前の勉強会でも相手国に規制が残っていないか、首相から尋ねられることが多い」と話す。

 インドネシアや欧州連合(EU)など10カ国・地域は放射性物質検査証明書の提出を義務付けるなどの規制を続ける。これに対し、中国や韓国、台湾など5カ国・地域は輸入停止を含む踏み込んだ措置を行う。

 中国は福島や宮城など9都県から全ての食品の輸入を停止している。中国は、安倍晋三前首相が訪中した平成30年に新潟県産米だけ条件付きで輸入を認めた。このため日本側には、習近平国家主席の国賓来日に合わせた改善を期待する向きもあったが、来日延期で見通せなくなった。

 一方、韓国は福島など8県の全ての水産物輸入を停止するなど独自の規制を続ける。韓国の水産物規制をめぐっては当初、世界貿易機関(WTO)に提訴し、「1審」に相当する紛争処理小委員会(パネル)がWTO協定違反と判断したが、その後、上級委員会が取り消した。

 日本は食品中の放射性セシウム量について各国より厳しい基準を設定しており、WTOも日本産食品の安全性を否定したわけではない。それでも韓国は「食の安全」を理由に規制の縮小や撤廃を拒んでいる。

 韓国は福島第1原発の処理水放出問題をめぐっても「汚染水」と主張しており、外務省幹部は「科学的根拠に基づかない措置は風評被害だ」と反論している。(田村龍彦)

産経ニュース 2021.3.2 18:48
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