東日本大震災が起きた後、台湾から200億円の義援金が届いたことを覚えている人は多いだろう。だが、台湾からの支援はそれだけではなかった。台湾人たちが被災地でどのような支援をしていたのかを紹介するとともに、多額の義援金を集める台湾の制度について解説したい。(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司代表 藤 重太)

■蔡英文総統が応援の動画メッセージ
 
今年1月23日、台北市の「Taipei 101ビル」の上層階の窓に「日台友情」というメッセージが映し出された。日本台湾交流協会が主催した東日本大震災10年目を「日台友情年」として感謝するイベントのスタートだった。式典には台湾の李永得文化部長(文化大臣に相当)も列席し、蔡英文総統も動画メッセージを寄せた。

同日の夜10時過ぎには蔡英文総統が自身のツイッターに日本語で「我々は世界に向けて、台湾と日本はいつまでも、固く結ばれている隣人だと伝えたい。台湾人と日本人は、心と心で深いつながりを築いています。その絆こそ、台日関係の最大の原動力であります。いつまでも日本を応援しています!」と投稿している。

10年前、東日本大震災後に台湾からの「義援金200億円」が届いたことは我々の記憶にいまだに深く刻まれていることと思う。このとき初めて台湾の存在と親日感情を知った方も多いだろう。しかし震災直後、台湾の人たちが日本の被災地に直接赴き、数多くの震災支援を行っていたことはあまり知られていない。

その後も日台友情の交流は続いている。新型コロナの感染が拡大する中、昨年4月21日には台湾政府から「日本加油(日本頑張れ)」とプリントされたマスクが200万枚贈られ、成田空港に到着したニュースは記憶に新しい。

■被災地の人だけが知っている台湾人の炊き出し隊と現金配布
 
我々は「台湾からの200億円の義援金」ばかりを注目しがちだが、被災地の人が「忘れられないぐらい感動し感謝した」という逸話がある。

震災から5日後の3月16日。白いズボンと白い帽子、紺色のジャンパーの背中に蓮のマークをつけた一群が茨城県の大洗町に到着した。台湾の慈済基金会(じさいききんかい)日本支部の人々が、トラックと自家用車を連ねて、被災地の人々に温かい料理を振る舞うためだ。

この団体は、台湾の財団法人「佛教慈済慈善事業基金会」の日本の分会で、本部は台湾の花蓮市にあり、台湾の尼僧の証厳和尚によって1966年に設立された仏教系慈善団体だ。「慈済」とは、「慈悲為懐、済世救人」(慈悲を懐にいだき、世を救済し人々を助ける)という意味で、実践を重視して世界で慈善活動を行っている。尼僧が中心の団体だが、多くの老若男女が賛同し、各地のボランティア活動に参加している。

彼らは、夜が明ける前に東京を出発し、茨城県大洗町、岩手県大船渡・陸前高田市、宮城県石巻・気仙沼市など被害の甚大な場所に赴いて、気温が10度を下回る中、カレーライス、焼きビーフン、豚汁、みそ汁などの炊き出しを行った。

彼らが届けた救援物資は数十トンともいわれている。この炊き出しは、現地で知らない人はいないが、メディアで報道されることはほとんどなかった。

この団体の被災地での救済支援はこれだけではない。彼らは独自に、被災住民に直接現金を配布していたのだ。役所、公民館や集会場に地元住人に来てもらい、一世帯あたり5万〜7万円、一人暮らしの方にも2万円を渡した。配り漏れがないように現地の役所と協力し、お年寄りなど配布場所に来られない人には、直接訪問し、一人ひとりに現金を手渡して回っていたと聞く。

実際に現金をもらった家族に、取材で話を聞いたことがある。

「台湾の仏教団体が現金を配るので各世帯の代表者は公民館に集まるように、とのチラシが配られました。我が家は父が行ったのですが、世帯名簿のチェックをするだけで5万円をもらって帰ってきました。先が見えない不安の中、本当に心が温まる出来事でした。あのお金は私たちに安心を与えてくれました」と当時を思い出し、涙を浮かべていた。

2021.3.10 4:55
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