昨年秋に日本中の耳目を集めた北関東の大規模家畜窃盗事件──。その主犯格とみなされた“群馬の兄貴”ことレ・ティ・トゥン(以下「兄貴」)は、そう言ってうなずいた。両足にリアルな豹の足がプリントされた布のズボンは、海外のチンピラか大阪のおばちゃんぐらいしか着ていないと思える独特のファッションセンスだ。

兄貴とヤクザとサングラス

 兄貴は2011年から日本で暮らしているらしいが、日本語がほとんど話せない。机の上にあるナイフを手に取り、「まあ食え」と身振りで示しながら柿とオレンジの皮を剥きはじめた。いずれもスーパーのプラスチックパックに入っているので、店で購入したものだろう。

「留置場で日本のヤクザと友達になった。そいつは3000万円を盗んだって言っていたが。写真もあるぞ」

 柿をつまみながら紫煙をくゆらせる。しばらく話していると、なぜか兄貴は自分の荷物を開いて数葉の写真を取り出した。沖縄のビーチで入れ墨をさらしながらくつろいでいる日本人のヤクザの写真である。

 事実上の別件逮捕(後述)が繰り返されたことで、兄貴は3ヶ月以上のブタ箱暮らしを余儀なくされたのだが、「お勤め明け」にもかかわらず更生した様子はない。言動にはそれなりに「悪そう」な雰囲気がある。

 ただ、彼の言動には鷹揚さも感じられた。取材前はもうすこし貧相な人物像をイメージしていたが、本人の様子を見ていると、近隣一帯の不良ベトナム人のリーダー格にふさわしいオーラもある。

「このサングラスは逮捕されたときに警察に押収されたが、釈放されたときに返してもらえた。群馬県警の取り調べは、特に殴られたりはしなかったが、やってないことまで疑われたのは腹が立つな。こんちくしょうめ」

 そう毒づく兄貴を前に、私の取材ははじまった──。

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文春オンライン
https://bunshun.jp/articles/-/45330