歴史認識のギャップ解消は容易でないが相互理解は進められる

2021.10.30 舛添 要一

「徴用工」問題をめぐって日韓関係は数年前から硬直状態が続いているが、2019年末に中国から世界に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響で、日本と韓国の人的交流も途絶えてしまい、関係改善は全く進んでいない。

 日本では、菅内閣の退陣→自民党総裁選→岸田内閣の誕生→総選挙と、政治の季節が続いており、日韓関係に取り組む余裕もない。また、岸田内閣誕生のために支援したのは安倍晋三元首相であり、安倍政権の対韓強硬姿勢を変更するのは躊躇せざるをえない。

 韓国では来年3月に大統領選挙が行われるが、それまでに文在寅政権が日本に対する厳しい姿勢を変えることはない。文在寅大統領の任期は来年5月までであるが、仮に野党への政権交代が起こっても、すぐに大きな変化が生じることは期待できまい。

 しかしながら、隣国との関係をこのまま放っておいてよいはずはない。

◆韓国与党の次期大統領候補も「対日強硬」の文在寅路線

 10月26日には、盧泰愚元大統領が88歳で死去した。1990年5月に国賓として来日した際に、天皇陛下は、日本による朝鮮半島の植民地支配について「貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、痛惜の念を禁じ得ません」と晩餐会で述べられた。これに対して、盧泰愚大統領は「韓国国民はいつまでも過去に束縛されていることはできません」と応じたのである。

 その時から30年以上が経つが、日韓関係はむしろ後退してしまっている。とくに文在寅政権になってから、韓国は「いつまでも過去に束縛されている」状況を続けている。

 来る大統領選は、与党「共に民主党」では李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事が正式に候補に決まった。李氏は対日強硬派として知られており、文在寅路線を継承すると見られている。

 日本が竹島の領有権を主張することについて、李氏は、7月には「日本の軍国主義勢力が侵略の意志を持っているためだ。軍事的には北朝鮮も重要な相手であるが、日本に対しても警戒心を緩めてはならない」と述べている。また、東京五輪のホームページで竹島が日本領とされていることについて、「容認してはならない。はっきりと歴史に残す意味でも、五輪参加ボイコットを検討すべきだ」と主張した。

 さらに、予備選挙勝利後の10月10日の演説で、「日本を追い抜き、先進国に追いつき、世界をリードする大韓民国をつくる」と、日本への対抗心を示している。

 岸田文雄首相は、10月15日、韓国側の要請で、約35分間、文在寅大統領と電話会談を行った。大統領は首相就任への祝意を述べた。

 岸田首相は、韓国最高裁の徴用工判決や慰安婦に関する日韓合意違反に関して国際法違反であることを指摘し、適切な対応を強く求めた。これに対して、文在寅大統領は、「1965年の日韓請求権協定の適用範囲についての法的解釈に(日韓間で)違いがある問題だ。両国間で外交的解決を模索するのが望ましい」との認識を示した。

 ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への対応については、日米韓3カ国の連携を強めることで一致し、また日本人拉致問題の解決について韓国が協力することを約束している。

続く

JBpress 10/30 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67531