在日韓国人2世で、日本で参政権を持たない芥川賞受賞作家、柳美里さんは投票への思いを発信するたびに「自分の国に帰れ」などと中傷を浴びてきた。戦後3番目の低投票率となった衆院選。自身を「二つの国に掛かる橋の上に立っている」と表現する柳さんの目にはどう映ったのか。(時事通信社会部 太田宇律)

 ー日本の選挙をどんな思いで見詰めていますか。

 選挙のときは、いつも各党の政見放送や報道を見ていますが、自分には選挙権がないので、投票という形で参加することはできません。けれど、道を歩けば候補者が演説をしているのを見掛けたり、パンフレットを渡されたりしますよね。小学校低学年のとき、同級生に「お前の家に投票用紙はないだろう」といじめられたことがあって、思えば子どものころからいたたまれない思いをしてきました。特に地方選は生活に直結することが争点になりますから、投票できないことに疎外感を感じていますし、いつも複雑な思いをしています。

◇街の一員

 ー衆院選の期間中、ツイッターに「参政権を持っている人には、持っていない人の境遇や立場を、頭と心の片隅に置いていただけるとうれしいです」と投稿されました。

 参政権がある人だけで日本の国は構成されているわけではないということを伝えたかったんです。私は茨城県土浦市で生まれ、神奈川県の横浜市や鎌倉市で育ち、福島県南相馬市で暮らしています。思い入れのある土地がたくさんあって、私にとっても日本は故郷なんです。国内にはおよそ288万7000人(2020年末時点)の在留外国人がいて、農業や水産業や工業など、さまざまな仕事に従事していますよね。日本国籍を持つ人だけではなく、外国籍の人々の命や労働も織り込まれて、この国はできているんだと伝えたかった。若者の投票率が低いこともあり、10代や20代の読者に呼び掛けたいという思いもありました。

柳美里 @yu_miri_0622

わたしは日本における参政権が無いので、投票をしたことがありません。
日本という国は日本国籍を有する人だけで構成されているわけではありません。
参政権を持っている人には、持っていない人の境遇や立場を、頭と心の片隅に置いておいていただけると、うれしいです。
https://twitter.com/yu_miri_0622/status/1451430754769006597?t=iLeL3qJrylSMG0F1renXmQ&;s=19
有権者に向けた思いをつづった作家の柳美里さんのツイート[ツイッターより]

 ーツイートには「気に入らないのなら自分の国へ帰れ」といった中傷コメントが殺到しました。

 何かを声高に叫んだり、参政権を要求したりする投稿ではなかったのですが、外国籍の人間が選挙について意見すると、すぐ「不満なら自分の国に帰れ」ということになってしまいます。ツイッターでは「日本に外国人はいらない」「緊急時になったら何をするか分からない」という意見も見ましたが、例えば、技能実習生は日本にとって必要だからこそ、たくさんの人数が国内で働いているわけですよね。私が住む福島県内でも多くの外国籍の方が除染や廃炉作業に従事しています。日本を故郷と感じ、役に立ちたいと考えて、街の一員として働いている方が多くいる。そうしたことについて、日本国籍を持つ人たちの間で理解や議論が進めばいいなと思います。

中略

 ー今回の衆院選で感じたことは。

 私は東京電力福島第1原発の旧警戒区域に住んでいるので、各党がエネルギー政策をどう考えるのか注目していました。2011年の原発事故で、今も広大な国土が帰還困難区域となったままです。総理大臣になられた方は皆さん、被災地を訪れ、東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)などを視察されますが、私はいつも除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設予定地の中にあるお宅に上がってみてほしいと思っています。予定地には家もあり、学校もあり、墓地もある。政治家には、あの事故で何が失われたのかを知っていてほしいんです。それと同じように、家のある人はない人のことを、豊かな人は貧しい人のことを、命や国籍や投票権を持っている人は持っていない人のことを想像するということが、投票という行為の本質なのではないかと、私は思っています。

時事通信 11/6(土) 18:33 https://news.yahoo.co.jp/articles/0dabb82510b47c021799cc57ca7d121f3789b068
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