韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)次期大統領の命を受けて、「対日政策協議代表団」という仰々しい肩書を持つ人々が24日に来日する。懸案を総タナ上げ≠ノすることで、新たな日韓協力の推進を目指す「尹錫悦路線」の瀬踏みといえる。

しかし、タナ上げできない問題がある。「自称徴用工」に対する日本企業の慰謝料支払い問題だ。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「やるやる詐欺」まがいの手法で時間稼ぎを続けてきたが、年内には「未来志向で」のセリフでは越えられない法的時限が来る。

代表団の団長を務める鄭鎮碩(チョン・ジンソク)氏は国会副議長であり、立場上いろいろなことを述べてきたが、実は対日温和姿勢の政治家とみられる。

メンバーには、李相徳(イ・サンドク)元外交省東北アジア局長も入っている。2015年の日韓慰安婦合意を取りまとめた功労者だ。が、文政権では、それが罪科とされパージされた。

朴歩(パク・チョルヒ)ソウル大学教授もメンバーだ。文政権の慰安婦合意破棄と韓国最高裁の徴用工判決を批判した論客だ。彼には「用日主義者」のレッテルが張られているが、「用日」の論法を押し出さなくては「実効性ある対日改善」を語ることができないのが韓国の現状だ。

韓国の現状を理解するのに、手頃な新聞記事を2つ紹介しよう。

「2015年慰安婦拙速合意の実務者が韓日政策協議団入り」(ハンギョレ4月18日)と、「岸田政権支持率高止まり 韓日関係にも変数になる見通し」(中央日報4月18日)だ。どちらも日本語の検索サイトで簡単に読める。

左翼紙ハンギョレの記事は、代表団のメンバーに李相徳氏と朴歩氏が入っていることを「問題視」している。文政権の本音の代弁といえる。文政権支持率が依然として40%もあることにも着目しなくてはならない。

大統領選では「金銭スキャンダルの百貨店」であり、自身も前科あり、身内に殺人犯を抱えた左翼候補がほぼ5割の支持を得た。韓国とは「反日左翼」が強い国なのだ。

「外交は大統領専権」の部分が多いとしても、国会議席の3分の2は文在寅派が占めているのだから、尹錫悦政権ができることには限界がある。

保守系紙である中央日報の記事は、日本の政権は支持率が下がると人気取りのために韓国との融和に走るが、岸田内閣の支持率は高いから融和には傾くまい―とするトンデモ認識に基づく。

こんな誤認識を振りまく新聞がシェア2位―それが韓国という国だ。

尹氏は「対米・対日優先」の発言を繰り返しているが、彼の国際感覚にも大きな疑問符が付く。ロシアによるウクライナ侵攻開始翌日(2月25日)、彼はこう述べた。

「経済制裁措置などにより、韓国企業が被害を受けないよう、徹底的に備えなければならない」

つまり、対ロシア経済制裁に消極的だったのだ。

彼は昨年9月、「自称元慰安婦」のもとを訪ねて、「必ず日本から謝罪を引き出す」と言いながら指切りをして約束した(韓国毎日新聞21年9月11日)。

こんな人物がいま、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」に、「加わりたい」といった素振りを見せても、とても軍事戦略・軍事機密情報を共有する仲にはなれまい。

代表団はおそらくはるかに分かっている人々≠セろうが、彼らも「韓国の現状」から離脱することはできない。

いわゆる徴用工問題では、日本企業が資産現金化阻止のために最高裁に再抗告した。「棄却」の判決は年内に出る。そのとき、尹政権はどうするのか。これは「未来志向でタナ上げ」とはいかない問題だ。

■室谷克実

ZAKZAK 2022.4/21 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20220421-ZS57Z7S33FIKTFLTD7IIUAZYUA/