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来日したバイデン米大統領は岸田文雄首相らと語らって、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を発足させた。日米はIPEF設立に併せて半導体、ハイテク用希少鉱物などの供給網の脱中国依存を進めるというが、「対中包囲」との言い方を避けるなど、いまひとつ腰が定まらない。

対する習近平党総書記・国家主席の中国からは産経新聞5月22日付の拙論「日曜経済講座」で指摘したように、すでに巨額の資本が逃げ出している。習氏のロシア・プーチン大統領との盟友関係、新型コロナウイルス・ゼロ政策に対し、海外の投資家・投資ファンドの間で警戒感が広がる中、米国の大幅な金利引き上げが本格化したためだ。

海外投資家による債券、株式など人民元建て金融資産保有残高は今年1~3月計で1613億ドル(約20兆円)減少した。同期の貿易収支など経常収支黒字895億ドル(約11兆円)を大きく上回る。金融危機が起きた2015年夏の資産売り(3カ月で1100億ドル)をはるかに凌駕(りょうが)する。

人民元資産売りは外為市場では元売りドル買いとなり、中国当局は元相場暴落を阻止するために外貨準備(外準)を取り崩して元を買い支えざるをえない。

外準は、3月が前年末比で622億ドル、4月は前月比で683億ドル減った。1~4月で1305億(約16兆円)ドル減ったことになる。15年の危機はそれよりもっと激しい速度で外準が減ったが、今回は元安に目をつぶって元の買い支え規模を抑えているようだ。なぜか。

中国人民銀行の金融市場からの元資金買い上げは経済活動に欠かせない金融の量的引き締めにつながる。中国経済は、不動産市況悪化、コロナ禍再発とゼロコロナ政策の失敗、さらに巨大都市上海などのロックダウン(都市封鎖)の長期化によって大きく減速している。そんな折に金融を引き締めると景気悪化に拍車がかかるから、元買い上げを控えめにせざるをえないのだ。

グラフは以上のような中国の通貨金融の脆弱(ぜいじゃく)さを示す。中国人民銀行は流入するドルに応じて元資金を発行している。主な流入源は貿易収支など経常収支の黒字と外国からの対中投資、特に証券投資である。

ところがロシア軍のウクライナ侵攻後は前述したように海外投資家が証券を売っているほか、中国の既得権層も厳しい資本規制の網をかいくぐって金融資産を海外に移している。外準は14年をピークに減り続ける。すると人民銀行は元資金発行を抑制せざるをえない。

日本のメディアは習政権が景気てこ入れに向け、積極的に金融緩和していると書き立てるが、中国経済に無知な?情報である。実際にはほんのわずかしか量を増やしていない実態がグラフからも明らかだ。カネを刷らないと財政支出拡大も不可能だ。ここで、米日が金融面でさらに対中制裁すれば、習政権を完全に追いつめることができる。だがバイデン、岸田両氏とも、本来はバリバリの対中融和派だ。膨張中国を封じ込める決意が本物か、疑問が残る。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5ececb920a11cbf771c2beea469d8e379f4803a