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――基本的な質問です。日本を含め、多くの国も通貨安に陥っている。なぜ韓国だけが通貨危機を心配するのでしょうか。

鈴置:外国からの借り入れにまだ、頼る部分があるからです。韓国は債権国に転じてはいますが、日本のように巨大な対外債権を持っているわけではない。世界で金融不安が起きると、韓国からおカネが逃げ出す可能性があります。

 そんな不安を率直に告白したのが朝鮮日報の社説「ウォン急落の中、短期外債急増、『安全ベルトをしっかり締めろ』という警告だ」(9月6日、韓国語版)でした。肝心な部分を訳します。

・1年以下の満期の短期外債の外貨準備高に対する比率が10年ぶりに再び40%を超えた。これを軽く見てはいけない。国内の一般投資家が海外の株式・債券の投資を増やしており、これらにドルの実弾を供給するために国内の銀行が短期の海外借り入れを積み上げたのだ。
・もちろん我が国の場合、外貨準備高が4000億ドルを超え、対外負債よりも対外資産の方が多いため、通貨危機を心配する状況ではない。しかし、ウォン急落は物価を押し上げ弱者階層の生活難を加重する一方、外国人投資の流出を招いて金融不安を誘発しうるという点で経済の「危機警報」と見るのが正しい。

 金融が不安定になれば、短期の外債は借り換えに応じてもらえず、おカネを一斉に返す羽目に陥りがち。下手すれば外貨準備が不足して、債務不履行(デフォルト)が発生します。そこで1年未満の外債と外貨準備高との比率を、国の健全性を示す指標として使います。

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――韓国は通貨危機に陥るのでしょうか、大丈夫なのでしょうか?

鈴置:状況次第です。朝鮮日報の社説も「通貨危機を心配する状況ではない」と書きましたが、今後もそうならこんな社説を載せて国民に警告する必要はないはずです。

 要は「外貨準備高が4000億ドルを超え、対外負債よりも対外資産の方が多い」状況がいつまで続くか、がポイントです。確かに8月末の外貨準備は4364・3億ドルある。

 しかし、通貨安を食い止めるために韓国銀行がウォン買いに乗り出せば、外貨準備は着実に減っていきます。2021年末の4631・2億ドルと比べ、すでに6%ほど減少しています。また、ドル高で発展途上国が経済危機に陥れば、韓国の外貨準備も減ってしまいます。

発展途上国との連鎖

――なぜ、ほかの国の危機が韓国の通貨危機を呼ぶのでしょうか?

鈴置:韓国の通貨当局が外貨準備を使って発展途上国に投資しているからです。それが焦げ付けば、「帳面には載っていても使えない外貨準備」になってしまうのです。

 中央日報の「韓国投資公社社長『外貨準備高、新興国のインフラに投資増やす」(2020年7月2日、日本語版)によると、韓国の外貨準備を運用する韓国投資公社は2020年の時点で15・6%を新興国のインフラや不動産、私募ファンドに当てています。

 韓国の通貨当局は「バクチ」好きで、高い運用益を求め怪しい債券に外貨準備を投入する癖があります。2008年の通貨危機の原因のひとつもそれでした。外貨準備でウォンを買い支えようとした時、実際に使えるドルは残っていなかったのです。

 もっとも、一番怖いのは国民が自分の国を信用しなくなって自国通貨を売ることです。通貨危機というと、欧米のヘッジファンドがどこかの国の通貨を売りまくって起きる、とのイメージが強いのですが、それはきっかけに過ぎないことが多い。

 ヘッジファンドが売っても、しょせん空売りが中心で、限界があります。一方、国民が売り始めれば、現物ですから理屈の上では通貨供給量相当の、外貨準備とはケタ違いの売りが発生します。

――「自国通貨売り」は韓国でも起きるのでしょうか?

鈴置:朝鮮日報の社説をもう一度、読んで下さい。「国内の一般投資家が海外の株式・債券の投資を増やしており」とあります。すでに国民の自国通貨売りは始まっているのです。

 2022年第2四半期の短期外債は1838億ドル。2021年第3四半期の1635億ドルと比べ、200億ドル増えています。4000億ドル以上の外貨準備から考えれば小さな伸びに見えますが、国民がパニックに陥れば、一気に膨らむでしょう。

全文はソースで
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/09091631/?all=1