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ハイテク分野を巡る覇権争いが激化し、各国が半導体分野の補助金支給を増やす中、メーカーによる投資競争が過熱している。自国生産の強化や技術の育成を後押しする政府の手厚い支援は、工場建設などの投資負担を減らしたいメーカーと利害が一致する。一方、こうした保護主義的な囲い込みが市場をゆがめると懸念する声は根強い。また米中対立が深まる中でメーカーが板挟みとなり、難しいかじ取りを迫られる可能性もある。

補助金支給で攻勢が目立つのが、半導体市場のシェアが50%を超える世界一の大国ながら、生産に限れば10%強にとどまる米国だ。8月には半導体の生産や研究開発に527億ドル(約7兆6千億円)を支援する新法が成立。自由競争を重視する米国は、もともと他国に比べ補助金支給に消極的だったが、中国との対立が深まる中で方針転換したかっこうだ。

7日には、バイデン政権が中国への輸出規制を強化することも発表。これにより人工知能(AI)やスーパーコンピューター向けの先端品輸出が制限され、先端品を扱う中国企業の工場に米国製の製造装置を売ることも原則禁止されることになる。

記憶用半導体の長江存儲科技(YMTC)などを標的にしたとされるこの措置に対し、中国外務省の毛寧副報道局長は8日の記者会見で「輸出管理措置を悪用し、中国企業に対し悪意ある弾圧を行っている」と猛反発した。

だが、その中国は以前から自国企業に米国をしのぐ巨額の資金を注いできた。対応の後れが指摘されていた日本も、6170億円の基金を活用して国内の工場新設や設備増強を支援。米中対立や経済安全保障に対する関心の高まり、半導体不足や物流停滞によるサプライチェーン(供給網)の寸断が、こうした動きを後押ししている。

米政府の補助金支給を当て込み、すでに台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子、米インテルといった世界的企業が米国での工場建設を表明。4日には、記憶用半導体大手の米マイクロン・テクノロジーも20年間で最大1千億ドルを投じると発表した。

日本政府もTSMCが熊本県に新設する工場に最大4760億円を支給する方針だ。7月には国内記憶用半導体大手のキオクシアなど、9月にはマイクロンにも最大で929億円と465億円の支援を決めた。

もっとも、行き過ぎた補助金合戦の「副作用」も懸念されている。

足元の半導体市場では不足解消が進む一方、需要減が鮮明になっている。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、需要減と補助金の後押しによる投資競争が重なれば「厳しい価格低下につながってくる可能性が出てくる」と懸念する。

一方、米国では補助金支給の代わりに中国に10年間投資しないと約束する必要がある。このためメーカーにとっては収益を確保しながら中国依存度を引き下げることも課題となる。

(井田通人、今仲信博)
10/28(金) 20:32配信
産経新聞
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