政府が、目標を精密攻撃できる米国製長距離巡航ミサイル「トマホーク」購入の検討に入った。年末に向けて検討中の敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を先取りするものだ。議論は尽くされておらず、憲法に基づく専守防衛を逸脱する恐れがある。再考を求めたい。

 敵基地攻撃能力は相手国領域でミサイル発射などを阻むための防衛装備を指す。政府は専守防衛の立場から、相手国を壊滅的に破壊する「攻撃的兵器」の保有は許されないとしてきた。

 しかし、中国の軍事的台頭や北朝鮮のミサイル開発など東アジアの軍事的緊張を受け、岸田文雄首相は同能力の保有検討を明言。

 防衛省は国産ミサイルの射程を九百キロ以上に延ばし、敵基地攻撃に転用できるよう研究をすでに始めているが、量産・配備は二〇二六年度になる見通しで、トマホークの先行導入案が浮上した。

 すでに米政府に購入を打診しており、海上自衛隊のイージス艦の垂直発射装置を改修すれば運用可能になるという。最大射程は約二千五百キロとされ、北朝鮮全土や中国主要都市が射程圏に入る。

 トマホークは、米国が〇三年のイラク戦争や一七年のシリア攻撃で先制攻撃に使用してきた攻撃型の兵器にほかならない。

 日本が長距離巡航ミサイルを保有すれば、いくら反撃のためだと主張しても、周辺国に先制攻撃の意図を疑われ、軍拡競争に拍車をかけかねない。反撃という日本政府の導入目的には合致しないのではないか。

 政府は、年末に改定を予定している国家安全保障戦略、防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)の安保関連三文書で、敵基地攻撃能力の保有を明記したい考えだが、歴代内閣が国会での議論を重ねて堅持してきた方針を、国会での十分な議論も経ずに変更していいのか。

 正式な方針決定前に、敵基地攻撃能力の保有を前提とした装備品の導入を進めようとしたり、ましてや米国との非公式交渉によって防衛政策の転換を既成事実化することなどあってはならない。

2022年11月1日 08時00分
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