(前略)

◆消えない軍隊内のイジメ問題

 そして徴兵制度を語るうえで絶対に外せないのがイジメ問題である。「陰惨で目も当てられない。男同士のセクハラも日常茶飯事」とは多くの韓国人が証言するところ。『D.P.-脱走兵追跡官-』という兵役でのイジメ問題を扱ったドラマがNetflixに存在するほどだが、ピョ氏は「実際はあのドラマよりもさらに狂っているかもしれない」と苦笑いする。

「私自身、軍隊にいた2年半(現在は2年)は毎日、意味もなく殴られていました。『意味もなく』なんてそんなことはないだろうって思うかもしれませんが、本当に理由なんて特にないんですよ。一種の習慣。訓練の一環として殴られるというのが日常になっているんです。兵役に行ったことがない日本人からすると、理不尽に感じるでしょうね。でも、軍隊ってそういうものなんです」

 先輩からの陰惨なイジメに苦しめられたピョ氏だが、やがて後輩ができると自身も恨みを買うようになる。後日談となるが、兵役から戻って街の映画館で後輩の集団に出くわしたときは殺されるかと思ったという。

「これはですね、自分が先輩になるとよくわかるんですよ。大勢の後輩たちの統制を取りながら管理するには鉄拳制裁に頼るしかない。言い訳とか口答えなんてさせていたら話が前に進まないわけです。上司が黒と言ったら、白であっても黒と言う。絶対服従を徹底させなくてはいけない。

そもそも軍人を育てるのは戦争のためじゃないですか。相手は死に物狂いで自分のことを殺しに来る。そうした相手を自分の手で殺すのは生半可な覚悟じゃできないですよ。訓練をソフトにして、『納得できないなら、まぁ俺の言うことなんて聞かなくてもいいけどね』みたいな教育をしていたら、絶対そいつは戦場で逃げ出しますから」

◆正常な判断ができなくなっていく

 軍隊の中では、一般社会の常識など通用しない。わけのわからない、理屈が通らない、デタラメだと思うような命令であっても、上長から言われたことは絶対に「イエッサー!」と従わなくてはいけない。毎日毎日、このようにズブズブ洗脳されているうちに、人間は正常な判断ができなくなっていく。

「軍隊では、正しいかどうかなんてどうでもいい。冷静に考えさせたらダメ。結局、兵役に行く一番のデメリットは人が馬鹿になって出てくることなんですよ。自分の脳味噌で考えられなくなりますから。

私自身の経験で言うと、配置転換されたときに『こうしたほうが合理的で生産性が高いんじゃないか』とか能動的にいろいろ方法を考えたことがあったんです。自分から率先して動きましたし。そうしたら褒められるどころか、いきなり上司がブチ切れてきたんですよ。『なんで命令もしていないことを勝手にやるんだ!』って。『お前は言われたことをやればいいんだよ! 自分で考えるんじゃない!』というわけです。軍隊ってそういうものなんですね。まさに馬鹿製造工場です」

(中略)

 韓国には有名な兵役ジョークが存在する。「女性が嫌う男の会話は3つある。1つは兵役。もう1つはサッカー。そして一番嫌われるのは兵役時代にサッカーした話をすることです」。BTSメンバーを待ち受ける兵役生活は、果たしてどのようなものになるのだろうか?<取材・文/小野田 衛>

【小野田 衛】
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。

11/12(土) 15:52配信
週刊SPA!
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