岸田文雄首相が、防衛費を関連予算と合わせて二〇二七年度に国内総生産(GDP)比2%に倍増させるよう関係閣僚に指示した。防衛力の抜本的強化のためとされるが、財源確保のための増税は避けられず、周辺情勢の安定に資するかも疑問だ。再考を求めたい。

 首相は防衛費の在り方について「金額ありき」を否定し、内容、予算、財源を合わせて「具体的に国民の命を守るために何が必要なのかをしっかりと議論し、積み上げる」と繰り返してきた。

 しかし、積み上げの議論が十分に行われたとは言い難い。

 例えば、政府は中国や北朝鮮の軍備増強を踏まえ、他国の領域でミサイル発射を阻む敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に踏み切る方向だが、必要な装備や予算規模は具体的に示していない。

 首相が自身の説明を翻して、防衛費増額の数値目標を設定したのは、与党自民党の要求をそのまま「丸のみ」したに等しい。
 そもそも、日本の防衛費をGDP比「2%」とすることに、明確な根拠があるわけではない。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国はGDP比2%を国防費の目標とするが、ロシアと地続きで相互に防衛義務を負う欧州各国と日本を同列に扱う必然性はない。

 米国から防衛費の増額を求められた安倍晋三首相当時の自民党が打ち出した2%目標が独り歩きしているだけではないのか。

 二二年度の防衛費は約五・四兆円でGDP比1%弱。2%に増やすには、仮に海上保安庁や研究開発、公共インフラ、サイバーなどを関連予算として合算しても、毎年五兆円以上が必要になる。

 当面は国債発行や歳出改革で捻出するとしても、政府有識者会議は増税を提言している。自民党は直近の衆参両院選で増税を公約しておらず、国民理解のない「軍拡増税」など許されない。

 日本が防衛費を倍増させれば、中国も軍事力拡充で対抗し、日本は際限なく防衛費を増やさざるを得なくなる。軍拡競争をあおり、地域の緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。

 戦後日本の平和国家としての歩みを踏み外しかねない防衛政策の大転換を、駆け込みで決めていいはずがない。国際情勢の変化に対応しつつ、国力に応じた抑制的な防衛力の整備に向けて国民的議論を重ねるべきである。

2022年11月30日 06時48分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/216928?rct=editorial

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