「日韓関係」が新たな局面に差し掛かっている。岸田政権はどのように動けばいいのだろうか。朝日新聞元政治部長の薬師寺克行氏が解説する。

年末の予算編成期を前に自民党内は「防衛費を2倍にする」「敵のミサイル基地をたたく反撃能力を持つべきだ」「米国からトマホークミサイルを500発、購入する」などという威勢のいい話ばかりが目立っている。

残念ながら中国、ロシア、北朝鮮と核兵器やミサイルの脅威を振りかざす厄介な国に接する日本の安全保障環境は最悪だ。これらの国の無謀な軍事行動を抑えるために、日本が一定の抑止力を持つことはやむを得ないだろう。しかし、軍事力だけで問題を解決しようとすることはウクライナ戦争の現状を見るまでもなく愚の骨頂である。また防衛費がなぜGDPの2%必要なのか、数字先行の政府与党内の議論にも多くの疑問が付きまとう。

それ以上に首をかしげざるを得ないのは、防衛費を倍増したのちに、地域の平和と安定をどう実現しようというのかという戦略がまったく議論されていないことだ。

今年1月の通常国会冒頭の施政方針演説で岸田首相は「新時代リアリズム外交」という言葉を強調した。普遍的価値の重視、地球規模課題の解決に向けた取り組み、国民の命と暮らしを断固として守り抜く取り組みが三本柱だという。残念ながら1年近くたった今になっても、具体像は示されていない。特に近隣諸国との外交をどう展開しようとしているのかがまったく見えてこない。その最たるものが日韓関係の改善だ。

(以下見出しのみ。本文略)

■大統領交代で日韓関係に進展が見えるも…
■外交の足を引っ張る国内政治問題
■尹大統領の支持率も低迷

■日韓関係改善のために

一方、日本政府は、日本企業の寄付や新たな謝罪を否定している。しかし、すべて拒否して合意できるのか不透明な部分が残っている。また、2015年の慰安婦合意のように韓国で政権交代が起きると、せっかくの合意が反故になるのではないかという懸念も日本側には強い。

こうした課題を乗り越えるためには両国における首相や大統領の強い指導力、政治力が不可欠だ。しかし、政権内の不祥事や内政問題に振り回され政権基盤が弱体化してしまうと、外交問題に取り組む余裕も力もなくなってしまい、大きな決断が難しくなる。日韓両国首脳は今まさに、そういう状況に置かれている。

さらにこの問題は先送りすればするほど、解決が困難になる。時間とともに両国の政権が弱体化する可能性がある。国内の空気もいつ変わるかわからない。場合によっては過去の韓国政権にみられるように、国内の支持率を高めるため大統領が姿勢を転換し、「反日」を掲げることもあり得る。また大法院が現金化のための手続きを進めてしまえば、日韓関係は報復の応酬という壊滅的な段階を迎えることになる。

視野を広げると、北東アジア地域の平和と安定のために日韓関係や日米韓の連携強化は欠かせない。中国やロシア、北朝鮮という周辺国の軍事的脅威に対抗するために日韓関係改善は不可欠なのだ。

「新時代のリアリズム外交」を唱える岸田首相にとっては今が一番、動きやすいタイミングだろう。数年ぶりに訪れたこの好機を逃してはならない。

12/8(木) 7:00 クーリエ・ジャポン
https://news.yahoo.co.jp/articles/d0c9db65ead199a97a87a4c4ba44734f3052f407