中国が、日本を含む30カ国に「非公式警察署」の拠点を設置していたとされる問題が、深刻さを増した。調査を進めているスペインのNGO(非政府組織)が今月、最新の報告書を公表し、拠点を置く国の数が53カ国に広がったのだ。日本では、東京だけでなく、名古屋の名前も上がった。これ以外の都市に存在してもおかしくない。欧米各国は、主権侵害の疑いで捜査・調査に乗り出しているが、日本では具体的な動きが見えない。まさか、中国に配慮しているのか。

中国による「非公式警察署」の存在は、スペインの人権NGO「セーフガード・ディフェンダーズ(Safeguard Defenders)」が9月に公表した報告書で明らかにした。

この時点では、米国や日本、英国、ドイツ、スペイン、カナダ、オランダなど30カ国に設置されているとしていた。日本の拠点は、東京・JR秋葉原駅近くにあり、夕刊フジは直撃取材した。

NGOは5日、最新の報告書を公表した。それによると、拠点が置かれた国の数は53カ国に広がり、日本では拠点が1カ所が追加された。報告書には都市名として名古屋が記されていたが、具体的な所在地など、詳細について記述はなかった。

法務省の在留外国人統計(2021年12月)で都道府県別在日中国人数を見ると、①東京都②埼玉県③神奈川県④大阪府⑤千葉県⑥愛知県の順だが、どうして、東京以外の拠点が名古屋なのか。

中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「名古屋周辺の多くの企業が中国に進出しており、中国から研修生もたくさん来ているだろう。非公式警察署が研修生をチェックをしている可能性が考えられる。研修生の中には『日本企業の先端技術の開発状況や特許内容を盗め』という指令を受けている危険もありそうだ。名古屋以外の都市に存在していてもおかしくない」と分析する。

NGOの報告書では、中国側は「非公式警察署」を通じて国外の反体制派や、中国に残る家族にさまざま圧力をかけているとあり、「国境を越えた取り締まりで、悪質かつ完全に違法な行為」と指摘していた。

これが事実なら、中国は相手国の主権や法制度を無視し、無断で治安・警察活動に関与していたことになる。

英国のトマス・タジェンダット安全保障相は11月1日、下院で「外国政府が、英国内でそのような活動ができるのは容認できず、止めなければならない」と述べ、調査中であることを明らかにした。

オランダのウォプケ・フークストラ副首相兼外相は翌2日、「外務省は中国大使に(非公式警察署の)閉鎖を求めた」とツイッターに投稿した。

米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官も同月17日、上院国土安全保障・政府活動委員会の公聴会で、「常軌を逸している」「放置しない」と述べた。

NGOの報告書によると、少なくとも12カ国で警察など法執行機関による調査が始まっている。前記の3カ国のほか、カナダやドイツ、スペイン、オーストリアなどが含まれている。

これに対し、日本の対応は消極的というしかない。

松野博一官房長官は11月14日の定例会見で、「ご指摘の報道は承知しているが、私からお答えすることは差し控える」と語っていた。同月17日の日中首脳会談を意識していたのか。

林芳正外相は同月29日になって、「仮に、わが国の主権を侵害するような活動が行われているということであれば、断じて認められない旨の申し入れを行っている」と記者会見で述べ、関係省庁とも連携して対応する考えを示した。

ただ、それ以降、日本の具体的な行動は見えない。岸田文雄政権の姿勢をどう見るか。

国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「欧米各国は『国家安全保障上の脅威』という面からも、中国の『非公式警察署』に対して、厳しく監視して活動を取り締まるという姿勢だ。岸田政権も断固たる決意と行動を見せなければ、『日本は弱腰だ』と受け取られる。中国が日本に対して、ますます不法活動をしてくる恐れがある」と警鐘を鳴らした。

12/8(木) 17:00 夕刊フジ
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