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 ゼロコロナ政策は10月の共産党大会でも承認され、習近平指導部の看板政策だったが、12月に入り、突如として大転換となったのは、11月下旬に全国で勃発したゼロコロナ政策への抗議運動が大きく関係していたことは間違いない。

 中国では若年層・都市部を中心に建国以来の雇用危機が発生しており、「ゼロコロナ政策がこの状況をさらに悪化させる」との不満が爆発した形だ。

 12月15日、習近平指導部は経済を活性化するため、中央経済工作会議を実施した。

 成長を下支えするための追加の刺激策などが打ち出されたが、経済が再び好調な状態に戻るのは困難だと言わざるを得ない。

 国民の間で新型コロナに対する警戒感は根強く、個人消費の迅速な回復は望み薄だ。

 成長の源泉だった不動産市場の極度の不振や急速に進む少子高齢化という構造的な問題も存在する。

医療体制に深刻な悪影響

 ゼロコロナ政策の解除によって新たなリスクも指摘されている。事実上の「鎖国」状態が解かれたことで中国から大量の資金が流出し、経済の下押し圧力になるとの懸念だ。

 国際金融協会(IIF)は「来年の世界経済の成長率はリーマンショック後の2009年並みの低水準(1.2%増)となる」と予測している。IIFは「来年の世界経済の最大の牽引役は中国だ」としているが、ゼロコロナ政策を解除しても中国経済が低迷すれば、来年の世界経済の見通しはさらに暗いものになるだろう。

 プラスの経済効果を見込んだゼロコロナ政策の全面解除だったが、その効果は空振りに終わる可能性が高いと言わざるを得ない。それどころか、「中国の医療体制に深刻な悪影響を及ぼす」との危機感が高まるばかりだ。

 世界保健機関(WHO)は12月14日「新型コロナの感染拡大で、中国は医療機関が逼迫するなどの困難に直面する」との懸念を表明した。

 中国の新型コロナの新規感染者数は減少傾向にあるとされているが、むしろ「隠れ感染者」が増加しているのが実情だろう。北京市など大都市では「新型コロナの感染が今後急拡大する」との心配が市民の間で広がっている。

 中国では国産ワクチンの接種が進んでいるが、海外のワクチンに比べて効果が格段に劣る。メッセンジャーRNAワクチンの導入が一時検討されたが、メンツにこだわる中国指導部が障害となって沙汰止みになった経緯がある。

 このため、中国の人々の新型コロナに対する免疫力は海外に比べて低い。

 医療体制が脆弱なのも頭が痛い問題だ。

 中国の10万人当たりのベッド数は4人分に過ぎず、先進国に比べて貧弱な状態にある。集中治療室の病床も極めて少なく、感染拡大が起きれば医療機関がパンクしてしまうのは時間の問題だ。

 このような弱点を抱えていることから、中国政府はゼロコロナ政策に固執してきたのだが、感染力が非常に強いオミクロン型が出現した時点で、中国のゼロコロナ政策はいずれ破綻することが予想されていた。だが、解除のタイミングが最悪だった。

 12月は新型コロナの感染拡大が起きやすい冬季の始まりだからだ。

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 ゼロコロナ政策が解除されたことで中国では来年1月下旬からの旧正月恒例の「民族大移動」が復活する。水際規制が緩和され、海外旅行に出かける中国人が急増すれば、中国発の新たな変異型が世界で猛威を振るうことになってしまうのだろうか。「3年前の悪夢」が繰り返されないことを祈るばかりだ。

藤和彦
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/12190603/?all=1