ジャーナリストの田原総一朗さんは、日本に暮らす外国人への偏見について筆をとる。

 1月30日付の毎日新聞が社説で、「日本人と外国人の間には、なおも厚い壁が存在している。それを取り除きたい」と強調していた。

 たとえば、ロシアによる侵攻を受けたウクライナから、これまでに約800万人が欧州各国に逃れているが、日本には約2200人が逃れてきて、民間レベルでも支援が広がっているということだ。

 日常生活で外国人と関わり合う機会は増えており、この社説によれば、昨年6月末時点の在留外国人数は約296万人と、過去最多を更新したようだ。

 だが、と社説は強く訴えている。

「日本人と外国人の間には、なおも厚い壁が存在する。根底にあるのは、社会に根深く残る偏見だ」

 そして、次のようなデータを示している。

「パーソル総合研究所が2020年に実施した調査では、日本社会に外国人が増えることに抵抗感があると36%が答えた」

 私は、太平洋戦争を知っている最後の世代であるが、この戦争と敗戦の体験が、外国人に対する偏見の要因になっているのではないか、と感じている。

 戦前の日本人は、特に韓国や中国に対して極めて傲慢だった。一つには、そうならざるを得ない立場にあったともいえる。

 アジアは歴史的に欧米の植民地獲得競争の標的となり、東南アジアにおいては、タイ以外はすべて植民地にされた。

 日本は、植民地にされたくないと強く感じ、そのためには欧州先進国や米国に引けを取らない軍事強国にならざるを得なかった。軍部の力が突出した結果、軍部に批判的な政治家たちは殺害され、ついに勝てる見込みがまったくない戦争に突入。そして敗北した。

 戦後になり、在日外国人に対しての傲慢さに加え、敗戦のコンプレックスが入り交じり、そうした複雑な気持ちが外国人への偏見につながったのではないか。

 昨今、外国人技能実習生の問題も聞かれる。その扱いが極めてひどいのである。

 たとえば20年秋、ベトナム人女性の技能実習生が、死産した双子の遺体を自宅に放置したとして死体遺棄罪に問われ、有罪判決を受けていた。この元技能実習生の上告審で、最高裁が2月24日に、弁護側と検察側双方の主張を聞く弁論を開くことになった。

 一、二審の判決によると、元技能実習生は熊本県内の自宅で、死産した男児2人の遺体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、1日余り室内の棚の上に置き続けたのだという。

 妊娠による強制帰国を恐れ、雇用先に妊娠を知られないようにしてきた実習生は少なくない。病院に行けず、孤立する中で死産を経験する例もあるだろう。彼女の事件は過酷な状況の一端に過ぎない。

 技能実習生は安価な労働力として扱われ、非人道的な労働環境や処遇がこれまでも問題視されてきたのだが、政府は改革に着手しようとしなかった。

 与党も野党も技能実習生の問題は見て見ぬふりをしている。移民問題に手を付けると強い反対が予想されるので、怖がっているのである。

 グローバル社会において、外国人との共生は避けようもない。この際、抜本的改革に着手すべきではないか。

※週刊朝日  2023年2月17日号
https://news.yahoo.co.jp/articles/56067338ede597f5d2b16e0dd7c3b0488b38f918?page=1