【台北=矢板明夫】台湾の与党、民主進歩党は13日までに、中国で台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室トップの宋濤主任に対し「われわれの自由と民主主義の社会制度を尊重して頂けるなら、台湾訪問を歓迎します」との声明を発表した。中国側が民進党に訪中を呼びかけたのを契機に、異例のやりとりが続いた。背景には中国側の政治的思惑があり、相互訪問の実現は難しそうだ。

きっかけは9日、宋氏が北京で台湾の最大野党、中国国民党の夏立言副主席と会談した際に「民進党関係者にも大陸(中国)に来てほしい。台湾独立に反対する人ならば私たちは歓迎する」と述べたことだった。中国政府はこれまで、民進党を「台湾独立志向の政党」と決めつけ、蔡英文政権が発足した2016年以降、「民進党と交渉しない」姿勢を貫いてきた。

宋氏の発言は「中国が態度を軟化させた」との見方もある。しかし台湾当局者の間では、来年1月に予定される総統選挙にむけて「台湾社会の分断を図る狙いがある」と警戒する声も上がっている。

民進党は12日、ホームページで宋氏の発言に関する声明を発表し「私たちは中台両岸の健全で秩序ある交流は歓迎する。中国は一方的な意思の押し付けをやめ、交流はいかなる政治的前提もなく行われるべきだ」と強調した。その上で、宋氏らの訪台を歓迎する姿勢を表明し「台湾の民意をより理解してほしい」としている。

台湾の大手紙記者は「米軍が中国の偵察気球を撃墜したことで、米中関係が悪化している。そのさなかに台湾と中国の関係緩和はあり得ない。民進党関係者の訪中も宋氏の訪台も、おそらく実現しないだろう」との見方を示した。

ある民進党幹部は「中国当局がわれわれの訪問を本気で歓迎すると思えない。総統選挙に向けた揺さぶりの一環だとみている」と話している。

産経新聞 2023/2/13 22:43
https://www.sankei.com/article/20230213-5MQL7Y7EZZNRTCNNYN2DBXGTUQ/