2月24日で1年となるウクライナ戦争は犠牲者が増え続けている。どうすれば戦争を止めることができるのか。日本は何をするべきなのか。和田春樹・東京大学名誉教授に聞いた。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。

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 ロシアがウクライナに侵攻したという第1報は、大きな衝撃でした。けれど、わずか4日後に停戦交渉が行われたことから、双方に話し合いに応じる姿勢を感じました。朝鮮戦争では停戦会談が始まるまでに約1年かかっていますから、異例の早さでした。

 私も停戦へのメッセージを出そうと、昨年3月15日、ロシア史研究者13人とともに「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」と題する声明をオンラインで発表しました。「即時停戦し、停戦交渉を正式にはじめよ」という内容です。

 その約1週間後にはロシア大使館訪ね、書記官らがずらっと並ぶ中、ガルージン駐日大使(当時)と会うことができました。「兄弟殺し」の戦争を即時停戦すべきであること、ロシアが提示している停戦条件にある「ウクライナの非武装化」にこだわらないことなどを求めました。ガルージン氏は、こう言いました。

「日本は米国と戦争したではないか。最終的には原爆を落とされたけれど、今は親しい関係ではないか」

 あぜんとしましたが、これは苦しい防戦だったと思います。

 我々の声明には「ロシアの侵攻によって戦争が始まった」と書いてあります。

「それは違う。2014年から始まっている」

 とガルージン氏は明言しました。これはウクライナ軍と同国東部(ドネツク、ルハンスク両州)の親ロシア分離派勢力との戦闘から続く一連の流れを指しています。戦闘の停戦を目指し、14年と15年に「ミンスク合意」が結ばれましたが、ウクライナ側が履行しなかったという流れをロシア側は非常に重く見ていることがよくわかりました。

 とはいえ、まずは停戦です。朝鮮戦争の時には、停戦会談が開戦1年後に始まりました。これを提案したのは米国でした。今回、米国は武器を援助してウクライナに戦わせてロシアを弱めたいという思惑があるようです。

 昨年11月、ウクライナと国境を接するポーランドにミサイルが着弾し、2人が死亡する事件があったとき、「ロシア発だ」と主張するウクライナのゼレンスキー大統領に対し、米国のバイデン大統領は早々に「ウクライナ発」である可能性に言及しました。米国が今回の戦争において、ウクライナの抗戦論の支持をやめ、即時停戦に動くことがありえます。米国とウクライナが対立する事態となるかもしれません。そうなると大変です。

 誰もがここまで戦争が長期化するとは予想していなかったでしょう。ゼレンスキー大統領は日を追うごとに固い姿勢になり、国民の団結を背景に停戦交渉のテーブルにつくのが難しくなっているのではないでしょうか。

 今、停戦のために働くにふさわしい国は日本だと思います。中国とインドは立場が違いますが、この2カ国を日本が仲立ちして停戦交渉の仲裁国としてはどうでしょうか。この考え方は専門家の方々には大不評ですが、アジアの大国が仲裁する以外に道がありません。

 私は第2次世界大戦の終戦の時、小学校2年生でした。空を飛ぶ美しい米爆撃機B29を見た世代です。静岡県の実家で空襲に遭い、防空壕(ごう)で耐え抜きました。あの経験から言えることは、戦争は一日も早くやめなければならないということです。広島、長崎への原爆投下は私たちの町に空襲があった1カ月後のことでした。敗戦して憲法9条を獲得した日本こそ、世界を救う国にならなければなりません。

(構成/編集部・古田真梨子)

※AERA 2023年2月27日号
https://news.yahoo.co.jp/articles/eb2d4b5e36eeeb7ab0df08b50a56e5de8493f263?page=1