1980年代から改革・開放を進めてきたベトナムが変化の岐路に立っている。今年1月に親米のグエン・スアン・フック主席(69)が収賄スキャンダルで辞任し、後任に親中のボー・ティ・アイン・スアン共産党常任書記(53)が今週中に選出されそうだ。そうなるといわゆる4柱と呼ばれるベトナム共産党書記長(序列1位)、国家主席(2位)、首相(3位)、国会議長(4位)が全て親中派となり、ベトナムが一気に親中に傾くとの懸念が浮上している。

 主要外信各社は「フック主席ら最近失脚した政府高官3人全員が親米」とした上で「ベトナムの外交方針が中国に傾くだろう」と分析している。ドイツ国営のドイチェ・ベレは「失脚したフック主席はこれまで欧米資本と緊密な関係を築いてきたため、フック主席が辞任すればベトナム国内で親中エリートの権力掌握が一気に固まるだろう」と予想した。

 ベトナムは伝統的に親米派と親中派の権力争いが続いてきた。共産党1党独裁体制を維持し、その強化を進める政治勢力は体制面でよく似た中国と近く、南シナ海問題で中国からの領土防衛に力を入れる勢力は欧米主義を掲げ親米の動きを示してきた。親中派はほとんどがベトナム北部出身で、共産党内で政治の実績を積んできた。これに対して親米派は中南部出身者が多く、主に南部の高位官僚出身者だ。

 ベトナムは1986年に経済不況から脱却するため「ドイモイ(新しい変化の意)政策」を進めてきた。共産党独裁体制を維持しつつも、国内での改革と外国への開放を通じ市場経済を導入することが目標だった。そのため主に親中派が書記長を、親米派が首相を担当するケースが多かった。ベトナムは共産党書記長が国政全般を担当し、国家主席が外交と国防、首相が行政、国会議長が立法を担当する。旧ソ連留学派のグエン・フー・チョン氏(79)が2011年に共産党書記長に選出された時も序列2-4位の主席、首相、国会議長全員が親米派だった。

ところがグエン・フー・チョン書記長が3期連続に成功した2021年にファム・ミン・チン共産党組織委員長が首相に、ハノイのブオン・ディン・フエ党書記が国会議長となった。二人はいずれも党内で政治の実績を積んできた親中派だ。この状況で4柱で唯一の親米となったフック主席が今年1月に突然辞任したのだ。主席が5年の任期を全うせず辞任するのは1976年のベトナム統一以来初めてだ。フック主席は一身上の理由で辞任すると発表したが、実際は首相在任中の収賄スキャンダルが原因との見方が支配的だ。コロナ渦の間にベトナムでは海外に住む自国民を特別に帰国させたが、その際に旅行会社が巨額の収益を得るのを後押ししたとして収賄スキャンダルが表面化した。これによりフック主席の辞任前から副首相2人が腐敗で辞任し、閣僚級3人が拘束された。

 一連の失脚は単なる腐敗が理由ではなく、派閥争いで敗れた「粛正」との見方もある。今回辞任した人物たちは主に親米派とされているからだ。香港アジア・タイムズは「辞任した政府関係者は全員が欧米主義だったが、これは偶然ではない」「このように腐敗との戦いを武器に権力を固めた点でチョン書記長は中国の習近平・国家主席と似ている」「ベトナムでも民間部門の影響力を抑え、インターネットの統制など中国式の支配方式が現れ始めている」と指摘した。

 チョン書記長の厳しい反腐敗政策が経済をさらに悪化させるとの見方もある。オーストラリアのロウィ国際政策研究所は「ベトナムの反腐敗運動は、党指導部に職業的な成果よりも個人の清廉さと政治的忠誠度を優先させるかもしれない」「この流れが今後も続けば、ベトナムの長期的な経済見通しにマイナスの影響を及ぼす恐れがある」との見方を示した。ベトナムは昨年韓国が最大の貿易黒字を記録した国だ。韓国はベトナムに対して342億5000万ドル(約4兆6700億円)の黒字だった。韓国によるベトナムへの直接投資も48億8000万ドル(約6650億円)に達している。

朝鮮日報日本語版 2023/03/01 11:33
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