ソウルの飲食店で昼食時に周囲の客からよく聞こえてくるのが「日本のどこそこの料理が安くておいしい」という話題だ。新型コロナウイルス禍による渡航制限の緩和を受け、日本に旅行に行くという韓国人の知人も多いが、彼らが口をそろえて楽しみだというのも、安くてうまいニッポンの味だ。

ソウルでは原材料費の世界的な高騰を受け、メニューを1~2割値上げする飲食店は珍しくないが、日本の場合、客に負担をかけまいと、爪に火を点すような節約をして値上げを避けようとする店も多い。

この努力が、約30年間、ほとんど物価の上昇がなく、「安く買われるニッポン」の背景の一つになってきたかと思うと、切なくもあるが、韓国人をはじめとする外国人観光客を引きつけてやまない日本の魅力であることも間違いない。

先日、日韓首脳会談の取材で東京に出張し、仕事を終えた後、久々に再会した同期入社の仲間に本社近くのクジラ料理店でごちそうになった。とろけるような肉の甘さに板前のきめ細やかな包丁さばきも感じられ、思わずうなる、うまさだった。

クジラ食という外国からは敬遠されがちな日本の食文化を守り抜こうとする店の心意気もにじんでいた。韓国人に自慢したくなるニッポンの味が増えた。(桜井紀雄)

産経新聞 2023/4/4 07:00
https://www.sankei.com/article/20230404-CBNR4QEEBNJ2PGVRPR3WXOSUJ4/