<WBCの日韓戦での敗北にも、特有の「悲壮感」がない。「韓国のナショナリズム」はどこへ? これが日韓関係で意味することについて>

3月10日、筆者はソウルにいた。夕食を兼ねたインタビューによる調査を終え、夜遅くホテルに帰りテレビをつけると、ちょうどワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日韓戦のさなかだった。試合は既に6回裏、日本代表がリードを広げ、韓国代表の敗色は濃くなっていた。

試合を中継したのは大手地上波3波の1つであるSBS、解説はオリックス・バファローズでもプレーした李大浩(イ・デホ)が担当していた。「これは韓国的には盛り上がらないな」と思いながら、中継を見ていると違和感がある。

そしてアナウンサーが「これがわが国の現状です。素直に認めなければなりません」と言った瞬間、気付いた。いつもの日韓戦、それも韓国代表が不利な状況に置かれている日韓戦に特有の「悲壮感」がないのだ。日本球界に詳しい李大浩の解説を、アナウンサーは淡々と聞いていた。

韓国はナショナリズムの強い国として知られ、かつてこの国を支配した日本はその主たるターゲットだった。だからこそ、スポーツにおける日韓戦にも強い関心が向けられ、韓国人は勝敗に一喜一憂した。勝利した際には強さを誇り、敗れたときにはふがいなさを悲憤慷慨し、来るべき試合での勝利を誓ってきた。

しかし、2023年3月の韓国にはその状況は存在しなかった。そしてそれは他の分野についても言えた。

日韓戦の4日前、韓国政府は元徴用工問題での解決策を発表した。発表の直前には反対する市民団体の集会が行われ、研究調査中の筆者はフィールドワークの一環として現場を訪れた。

しかしそこで見たのは、複数の市民団体が集めたわずか十数人程度の人々を、はるかに多くのメディアのカメラが待ち受ける奇妙な姿だった。街行く人々はその様子を遠目に見て通り過ぎ、多くの関心を払っているようには見えなかった。

韓国では、さまざまな団体の大規模集会が行われるのは土曜日が慣例になっており、WBCの日韓戦の翌日はこの土曜日に当たっていた。

5日前の月曜日に行われた元徴用工問題に関わる政府発表に反対する市民団体や野党は、この日を期して大規模集会を開催し、ソウル市中心部の会場には「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)をはじめとする野党党首たちも集結した。

しかし、この市民団体や野党の総力を結集したデモにおいて筆者が見たのも、かつてとは異なる風景だった。なぜなら、市民運動団体や野党が攻撃の矛先を向けたのは、日本政府よりも解決策を発表した尹錫悦(ユン・ソギョル)政権に対してだったからである。

韓国有数のポピュリストとして知られる李在明の舌鋒が向けられたのも、尹錫悦に対してであり、「岸田」の名は登場すらしなかった。

デモ隊が掲げるプラカードに書かれていたのは、「日本は謝罪せよ!」ではなく、「尹錫悦退陣!」であり、その雰囲気は例えば19年、日本政府の輸出管理措置に反発して行われた「NO安倍」運動とは全く異なっていた。

デモ隊が配るパンフレットやプラカードに岸田首相の顔写真や名前を探した筆者が見つけられたのは、辛うじて労働組合が配る新聞紙面上の写真だけだった。

これは「反日運動」ではなく、「反政府運動」だな、と思いながら、こうも考えた。もしそれが韓国の人々が日韓関係を冷静に考えられるようになった証しなら、それはきっと良いニュースなのだろう、と。

不人気なはずの解決案にもかかわらず、大統領の支持率に変化はほとんどなく、日本がWBCに優勝した日、韓国メディアに並んだのは日本代表を称賛する言葉だった。だとすれば、われわれの将来はそれほど悲観すべきではないのかもしれない。

木村幹(本誌コラムニスト、神戸大学大学院国際協力研究科教授)

https://news.yahoo.co.jp/articles/9e9ecf885625d5a879982ee225d33faedd507a66

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