もしも「推し」の子どもとして生まれたら。現代社会のファンタジー、ネット社会の課題、サスペンスの要素が詰まったアニメ『推しの子』がいま、大ヒットしている。

 「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の漫画が原作である『推しの子』は今年4月にアニメが始まって以来、YOASOBIが歌う主題歌「アイドル」のヒットもあり、世界中で人気を集めている作品だ。

 先日、第1期が最終回を迎え、第2期の制作が発表されている。アニメの絵コンテ、原画の複製、作中衣装の展示などが楽しめる『TVアニメ【推しの子】展 嘘とアイ』も全国のPARCOで巡回開催中と、その勢いは広がるばかり。

 隣国のエンタメ大国の韓国でも、最新話が出るたびにSNSで感想が飛び交うほど『推しの子』が流行している。第1期の最終話放送後は、感動したというツイートが多く投稿された。

 なぜ韓国でも熱狂する人が多いのか? その理由について紐解きたい 。

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※以下、作品のネタバレを含みます。ご注意ください
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韓国で圧倒的な人気キャラクターは?
 『推しの子』のストーリーは、複雑だ。第1話で主人公である産婦人科医のゴローが何者かによって殺されるが、生まれ変わると、なぜか生前推していたアイドルの子ども(星野アクアマリン)だった。アクア(元ゴロー)にとって最愛のアイドルであり母だった「星野アイ」を殺した真犯人を芸能界で探し復讐するのが物語の軸となる。

 ここまでは「ファンタジー」と「サスペンス」の要素が強くまさに漫画のようなストーリーだが、2話以降はアクアの双子として生まれた星野ルビーが、母の背中を追ってアイドルを目指す過程が描かれる。登場するキャラクターの多くが高校生女優や若手YouTuber、モデルであり、アニメから芸能界の裏側について学べるストーリーとなっているのも特徴だ。

 中でも、韓国の視聴者の多くが”推すキャラクター”が、子役時代の成功体験と失敗体験から自身の芸能活動に葛藤を抱く高校生の有馬かなだ。

 有馬かなは星野ルビーの誘いで、ルビーとYouTuberのMEMちょの3人で新生「B小町」としてアイドルを目指すことになる。

 『推しの子』では、有馬かなの「子役以外の自分」を見つけるのに苦戦する姿が細かく描かれている。韓国では有馬かなのもがく姿に共感する声が多く、回を重ねるごとに韓国人の間で「有馬かなファン」が増加していった。

 特に第1期の最終話、新生「B小町」の初舞台を見て、アクアが盛り上げようと全力でオタゲーをするシーンに注目が集まった。B小町の応援に必死なアクアと、それを見て喜び輝きを放つ有馬かなを見て、韓国人は「アクかな」(アクアとかなの組み合わせ)と称し、SNSで2人を応援する声が目立った。

 「(有馬かなのアイドル姿を見て)鳥肌がたった!! !」「アクかな最高!」「このあと原作読んだけど、アクかな中毒になっちゃった」「アイドル姿の有馬かなを見て気絶しそうになった」などとSNSで盛り上がった。

(略)

なぜ韓国人もハマるのか?

 韓国人がなぜ『推しの子』にハマるのか。日本と同様にアイドル産業が発展しているだけでなく、「推しの成長過程を楽しむ文化」があるからかもしれないと筆者は考える。

 これまで韓国は、数々の人気オーディション番組を生み出してきた。人気ガールズグループ「TWICE」が誕生した「SIXTEEN」や、AKB48グループの協力もあり話題となった「Produce 48」、韓国の芸能事務所が日本人アイドルをプロデュースする「Nizi Project」......。アイドルを目指す若者の成長過程を追いかけることができる番組は、韓国で大きく拡大してきた。

 『推しの子』の第1期でも、星野ルビーが芸能人としての作法やSNSマーケティング、芸能界で注意すべきポイントなどを、事務所やインフルエンサー、そして芸歴の長い有馬かなから学ぶシーンが多く見られる。

 アイドルに憧れる一般人が一流の芸能人を目指す過程は、現実社会でもアニメでも「面白い」と感じる人が多く、「推し」への熱はそれほど強力なものかもしれない。

 韓国にも「推し」という言葉がある。推しは韓国語で「最愛(チェエ)」と表現される。『推しの子』の韓国でのヒットは、日本との文化の近さと「推し」に対する熱意の高さが大きな理由として挙げられるのではないだろうか。

 日本と同様に、韓国でも第2期を楽しみにしているファンの声を見かける。『推しの子』は日本のヒットアニメとして、韓国に浸透したと言えるだろう。

ペ・リョソン(コラムニスト)
https://news.yahoo.co.jp/articles/65542eee1298967cfaf6f1c3e9ca67db3de1b3c6?page=1