次々浮上する安倍政治の負の遺産、それをさばき切れていない岸田政権の現実

ー前略ー
・極右路線からの転換

 安倍長期政権の間に、右寄り保守路線が定着した。それは安倍晋三個人の政治趣向もあるが、
それを安倍政権を支える知識人、圧力団体などの応援団が増幅した。
嫌中派、嫌韓派と呼ばれる人々がそうであり、対中関係、対韓関係も悪化した。

 安倍政権の右傾化路線を象徴するのが杉田水脈議員である。
櫻井よしこに代表される日本会議などが、思想的に共鳴して彼女を安倍に推薦し、安倍もそれに賛成した。

 政策、思想は古くさい20世紀の反共主義で、「個人よりも家族が大事」、「夫婦別姓、LGBT、学童保育、男女平等」に反対である。
これらは全て共産主義者の陰謀と言う。

「古き良き時代のリベラルな」自民党が、安倍第2次政権下で極右路線に転換したが、その象徴が水田である。
先に閉幕した通常国会でLGBT法が成立したが、党内保守派は、「安倍が存命なら、こんな法律は成立しなかったのに」と悔やんでいる。

 そして、選挙の公認権や人事権(自民党人事のみならず官僚人事についても)を首相官邸が独占する事態が、
日本の政治を大きく歪めてきた。
内閣人事局の設置も一因であるが、2012年12月26日から2020年9月16日まで8年近い長期間続いた安倍政権が背景にある。
つまり、安倍首相に気に入られれば出世し、嫌われれば疎外されるという状況になったことである。
その典型的な例が杉田水脈議員なのである。

 統一教会といい、杉田水脈といい、まさに安倍政治の負の側面である。

 自民党は保守政党であるが、右から左までウイングを広げた多様性あふれる「総花政党(catch-all-party)」であるところにその強みがあり、
長期に政権を維持してきた秘密があるのである。
しかし、2012年に政権に復帰した後の安倍政権は右に振れた形で政権運営を行ってきた。
その歪みが統一教会や杉田水脈問題として露呈したのである。

 自民党内のリベラルを代表する宏池会の代表である岸田は、この1年間に安倍政治の右寄り路線を修正したのだろうか。

・棚ぼたの幸運:日韓、コロナ、五輪汚職

 国外に目を向ければ、安倍政権時代に韓国との関係は「史上最悪」と言われるほど悪化した。
菅政権になっても基本的にその方向性に変わりはなかった。

 この嫌韓路線を転換するきっかけは、相手の韓国からやってきた。韓国の尹錫悦大統領は日韓関係改善に大きく舵を切った。
韓国政府は、「元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)」訴訟問題の解決策を発表するなど、矢継ぎ早に関係改善策を打ち出した。
それに岸田政権も応え、一気に関係改善へと向かいつつある。

 韓国国内で反日左翼勢力がこのような関係好転策に反発するように、日本では安倍政権を支えてきた嫌韓派右翼が反対する。
日韓関係悪化の第一義的責任は文在寅政権にあるにしても、嫌韓派を野放しにし、
反韓国感情を煽るなど、安倍政権にもまた対応が適切ではなかった面がある。

 日本人の信者から金を奪えばよいという統一教会のトップの考え方を念頭に置けば、
嫌韓派なら統一教会から選挙支援を受けるべきではないのではないか。

 ところが、現実はそうではなかった。安倍派のこの矛盾は看過できないはずである。

 岸田首相が脱安倍路線を選択するのなら、今進んでいる日韓関係の「とげ抜き」は重要な意味を持つ。
排外主義的な嫌韓論者やネトウヨを切り捨てて、新たな日韓関係の構築に邁進しなければならない。
ー後略ー

全文はソースから
JBpress 2023.7.8(土) (舛添 要一:国際政治学者)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75929