北方領土の貝殻島にある灯台で今月に入り、ロシアが実効支配を誇示するとみられる動きが、相次いでいる。
28日からは墓参に代わる「洋上慰霊」が灯台の近くで始まっており、
専門家は「北方4島のロシア化を日本側に見せつけるのが狙い」と指摘している。
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 根室海上保安部によると、26日午後6時過ぎ、灯台が点灯した。
5秒程度の間隔で白い光を放ったといい、27〜29日夜も点灯した。
灯台の高さは約17メートル。点灯が確認されたのは、2014年11月以来となる。

 北方領土問題の啓発施設「北方館」(北海道根室市)によると、潮流が速く暗礁があるなど航海上危険な水域のため、
1937年に日本の逓信省(当時)が建設した。

 終戦後にソ連が占拠した後も灯台は使用され、10キロ・メートル先まで光が届いていたという。
老朽化で2014年11月から消灯して灯台の機能を果たしていなかったが、
17年9月の安倍首相(当時)とプーチン大統領の首脳会談では、改修を検討することで合意した。

 この灯台で今月2日、ロシア国旗が掲揚されていることが確認された。24日には、灯台が白く塗られていることが判明。
翌日には十字架が設置されたことも分かった。
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白く塗られ、十字架が設置された灯台(29日午前)

 ロシアのロシア正教会関係のメディアは9日、貝殻島灯台に十字架とイコン(聖像画)を設置するための儀式が行われたと伝えた。
ロシア海軍などに対して、設置用のイコンを司祭が与えたという。プーチン政権はロシア正教会を重視しており、トップの総主教は、
ウクライナ侵略に支持を表明している。

 ロシア側の一方的なビザなし交流などに関する合意破棄により北方領土の墓参ができないため、
元島民らによる「洋上慰霊」は28日から始まった。貝殻島と納沙布岬の中間ライン手前の船上で行い、灯台がよく望める場所だ。

 初日のこの日、濃霧のため灯台は見えなかったが、参加した色丹島出身の男性(89)は
「慰霊を狙ったようなタイミングだ」と困惑した様子で話した。

 洋上慰霊は、来月末までさらに5回予定されている。来月に参加予定の安木新一郎・函館大教授(ロシア地域研究)は、
「洋上慰霊への対抗措置だろう。ロシア国内に対して正教の十字架を掲げることで、
聖なるロシアの土地を守るロシア軍という宣伝材料にしたいのではないか」と指摘している。

 松野官房長官は29日の記者会見で、国旗掲揚について「受け入れられない」として、
今月2日と25日にロシア政府に抗議したと明らかにした。

  ◆貝殻島= 歯舞群島の一つで、納沙布岬から3・7キロ・メートルにある岩礁。
ロシアが実効支配しており、灯台があるだけで住民はいない。戦前にも人家はなかった。
日本側は採取料を支払い、周辺でコンブ漁が行われている。

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2023/08/30 14:47
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「灯台が日本の領土と考えるなら、なぜ自分で改修しなかったのか」北方領土・貝殻島灯台に白ペンキ塗り点灯させたロシア側が主張
8/31(木) 20:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6027c42fc38b98c92f477e6bc7ccc7c9429af8d4