ー前略ー
 雑誌編集者の早川タダノリ氏(@hayakawa2600)は、この意見広告に対して〈「食べて応援」が行き着くところは
こんな地点であることがわかる。失政がもたらした惨事を、一貫してナショナリズムの動員によって穴埋めしようとするこいつら、
そもそも「中国に勝とう」って言うが、勝者はどこにもおらん〉と発信した。

 「失政」とは具体的に何を指すのか。

 そもそも処理水の安全性は確保されている。これを保管し続けるため増え続けたタンクは廃炉作業と復興の大きな障害となり、
地元自治体からは地上での継続保管に反対する要望が何度も訴えられ続けてきた。

 9月14日付の拙稿『処理水放出を巡る世界の反応…中国の「核汚染水呼ばわり」「水産物禁輸」は結局、
政治的な“情報工作”“外交戦”でしかない』で示したように、国際社会も総じて処理水海洋放出への理解や支持表明や
日本産食品の輸入規制解除が相次ぐ中、中国や北朝鮮が事実と科学に背を向け逆行している状況だ。

 こうした輸出入規制について言えば、中国はこれまでもたとえば2010年のレアアースであったり、日本以外にも台湾産パイナップル、
フィリピン産バナナ、オーストラリア産石炭などに対して事実上の政治的報復として常習的に繰り返してきた“前科”が無数にある。

 今回もその一例を重ねたに過ぎず、これは「風評問題」ではない。極めて政治的な問題であり、文字通りの外交・情報戦と言える。

 このような状況で、「日本が汚染されている」かのような極めて侮辱的・差別的な中国の横暴を「失政がもたらした惨事」と
日本側に責任転嫁して正当化し、理不尽な被害を受けた当事者の救済すら「ナショナリズムの動員」などと侮辱して邪魔することが
一体誰のためになり、何に利するというのか。

 アメリカ在住映画評論家の町山智浩氏(@TomoMachi)も同日、
〈中国が買ってくれなくなった日本の魚を日本人が食べると中国に勝つことになるの? 中国にとって痛くもかゆくもないのに? 〉
と発信した。

 町山氏は前日9月5日にもこのような発信をした。

 〈「福島県漁連によりますと、7日朝、いわき市の沖合8.8キロ、
水深75メートルほどの漁場でとれたスズキから県漁連が自主的に設けた基準を超える放射性物質が検出されました」

 いったん排水を止めて他の方法も検討してみて〉

 しかし町山氏が共有したこのNHKニュースは約半年前の2月のものであった。

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参照)水揚げされたスズキから自主基準超える放射性物質 出荷自粛に(2023年2月7日 NHK)
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 そもそも検出された85.5Bq/kgは主にセシウム由来であり、トリチウムが議論となった処理水とは何ら関係がない。
ほぼ全ての魚介類が検出限界地未満の中で、米国の食品基準1200Bq/kgはおろか非常に厳しい国内の100Bq/kgすら下回る、
リスクの議論上では意味を持たない「自主基準」超過が出た稀なケースに過ぎない。

 ALPS処理水放出と無関係な過去のニュースを持ち出し、まるで近海の魚が汚染されたかのように
「いったん排水を止めて」と訴えたこの投稿には、「『やり方は違えど国の事福島の事思ってやってる』事じゃないよね。
ワザとデマを流して貶めようとしてる」「古い記事を引っ張り出して来てまで風評加害に勤しむ。
なんでそこまで福島への憎悪を募らせてるんだろう…」などの批判が殺到している。

 9月12日時点で町山氏からの訂正等は確認できず、
投稿に返信できるアカウントは町山氏がフォローしているか返信した相手のみとする制限がかけられていた。

 ここでとりあげた発信は氷山の一角に過ぎない。
ー後略ー
林 智裕(フリーランスライター)

9/18(月) 6:04配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/30852979c39ad018f91921b8afd1461df699cda9