9月6日、北朝鮮は「戦術核攻撃潜水艦」の進水式を行なった。艦名は「金君玉英雄」。通常動力型潜水艦で、司令塔の後方に垂直ミサイル発射機10個を背負う。そのうち大きな4個は射程800kmのKN23、小さい6個は射程距離推定1800~2000kmの長距離巡航ミサイル・ファサルだ。

こうした北朝鮮の軍事動向に松野博一官房長官は記者会見で、「北朝鮮の軍事動向はわが国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫って脅威になっている」と語った。

この北朝鮮の潜水艦はどれほど恐ろしいのか。海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長、第二潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に聞いた。

「まず、この両ミサイル用に必要な核弾頭の小型化はまだ完成しておらず、さらにこの潜水艦から撃てるかどうかも不明です。それ以前にちゃんと潜れるのかも疑問です。報道では進水式を行なったとありますが、これはつまり浮かんだだけ。現在の北朝鮮には、深く長時間潜れる大型潜水艦を作る技術はありません。この潜水艦も新造艦ではなく、旧ソ連が半世紀前に作ったロメオ級の改造です」(伊藤元海将)

世界中の海軍を取材し続けるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、2016年にそのロメオ級を北朝鮮で目撃している。

「2016年に北朝鮮の南浦市が用意してくれたボート『シニエル2.27号』で、南浦の商業港、軍港、海軍基地、閘門を視察しました。北朝鮮労働党の監視員の指示により、軍港と軍艦造船所の撮影は禁止でした。しかしそこでは、4隻の033型ロメオ級に木の櫓(やぐら)が組まれ、大勢の作業員が青白い光をバチバチさせながら、溶接作業をしていたのが確認できました。その艦体の色は朝鮮中央通信の画像でよく見る緑色が三隻と、一隻が剥げた黒色だったと記憶しています。

ただし、今回発表された戦略潜水艦は黒色ですが、南浦は黄海側の基地ですので、同一の艦ではないと思います。北朝鮮はこれまでに、改造ゴルフ級、新浦級、新浦C級と、少なくとも3~4隻の戦略潜水艦を試作してきましたが、今回のはいずれとも違うNATOコードネーム『ロメオ』と呼ばれる潜水艦を改造したものと推定します」(柿谷氏)

潜水艦はそう簡単に建造できるものではないらしい。

「潜水艦は長時間潜れないと意味はない。長時間水圧に耐えて潜り続けるためには、まず内殻に使う鉄が極めて重要です。柔軟性があるが堅いという高張力鋼を作る能力がないと始まりません。次にこの高張力鋼の分厚い板を完全な真円に曲げる技術。そして1ミリの隙間も入らないように溶接する技術。この3つの技術がそろわない限り、現代戦を戦う潜水艦は作れません。特に溶接技術は潜水艦保有国にとって秘中の秘です。ほんのわずかな隙間があっても、水圧により一瞬で圧壊してしまいますからね」(伊藤元海将)

この戦術核攻撃潜水艦「金君玉英雄」は、司令塔の後方にミサイル垂直発射機VLSを積載する。報道写真を詳細に分析した柿谷氏はこう言う。

「2021年に公表されたVLS搭載潜水艦『8.24英雄艦』と異なり、033型の特徴を大きく残しています。ただし艦首のソナー部、潜舵まで約30mをぶった切っており、艦首形状が大きく異なります。

セイル部は階層を高くし、後部をVLSにしたのが特徴。潜舵を艦首からセイル部に移設し、VLSを設けるなど大改造を行なったようです。前縁のフィレットはバージニア級やそうりゅう型など、昨今の流行を採用したと見える。艦首を短くしたのは、おそらくVLS増設による船体重心の位置を変更するため。試作した新浦級、新浦C級の試験の結果で判断したと思われます」(柿谷氏)

つまり元のロメオ級潜水艦の船体のあちらこちらを切り取り、溶接して継ぎ足して作られたらしい。まさに継ぎ接ぎだらけのパッチワークだ。

「VLSの大きな発射管は北朝鮮版イスカンデル『KN23』と推定されます。しかし、KN23は全長が9m。潜水艦の艦殻は直径5m。なので外殻、内殻を貫く立孔を開けて、溶接でつないでいるのでしょう」(伊藤元海将)

北朝鮮は潜水艦用の超高度な溶接技術を持つかどうか分からない。切り札のVLS周りから圧壊が発生する可能性がある。(以下ソースで

10/3(火) 7:00配信 週プレNEWS
https://news.yahoo.co.jp/articles/90287371fbb4d0969f570fbea2aabbc8a75679db
北朝鮮が戦術核攻撃潜水艦とする『金君玉英雄』号。司令塔の後方に計10個の垂直発射管搭載する(写真:朝鮮通信/共同通信イメージズ)
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