毎年秋になるとノーベル賞受賞者発表のニュースが関心を集める。
今年も生理医学賞をはじめ平和賞まで6部門の受賞者が発表された。
すべての受賞者が話題だが、ハンガリー出身のカタリン・カリコ博士は映画のように劇的な人生で特に注目された。

生命工学企業ビオンテックの上級副社長として在職中のカリコ博士は米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授とともに
生理医学賞共同受賞者に選ばれた。新型コロナウイルスに対抗する人類の武器であるmRNAワクチンの核心技術を開発した功労だ。
保守的なノーベル賞委員会がmRNAのように現在も開発中である技術に賞を贈った点も異例だが
世間の基準として見ると大きな経歴がない人物が主人公である点も興味深い。

ハンガリー生まれのカリコ博士は大学生時代からその後の生涯の課題となったこの分野に関心を持った。
ハンガリーは科学分野だけでノーベル賞受賞者を9人も出している。
19世紀に医師の手の汚染により妊婦の死亡率が高まるという事実を明らかにし、
消毒法で多くの妊婦を生かした科学者イグナッツ・ゼンメルワイスもハンガリー出身で、
カリコ博士はゼンメルワイスを含むハンガリー科学者の「学問的後裔」だ。

カリコ博士は生涯の課題であるmRNA研究を正しく遂行しようと米国に渡り苦労の末にペンシルベニア大学で教授職を得た。
だが学問的に注目されることはなく成果もすぐには出てこないmRNA研究に没頭する彼女に大学は寛容を無制限で施さなかった。
10年余りにわたり成果を出せず彼女は教授職を失い研究員に降格され、年俸も半分に削減された。

普通はこうした場合、学界では侮辱に耐えられず辞職する。
だが彼女は研究をしっかりできるインフラが整ったペンシルベニア大学に残る道を選んだ。
彼女の風よけを自任したのが今回ノーベル賞の共同受賞者であるワイスマン教授だった。

こうしたカリコ博士の人間勝利の話は映画にしても良いほど劇的だ。人々は彼女の強靭な意志と努力に賛辞を送るが、
彼女の成功談を可能にさせた背景は見過ごしている。
もしペンシルベニア大学のしっかりとした研究インフラがなかったとすれば彼女のストーリーは可能だっただろうか。
ー中略ー

だから教授から研究員に降格されてもそのインフラに残る道を選び、そこで再び機会を得て研究を継続する。
「敗者復活戦」が可能になるのだ。人類がコロナと戦い負けないのもこうしたインフラのおかげだ。韓国の現実はどうなのか。
言葉ではだれもが研究インフラの重要性を力説するが、まともに実践するのかは疑問だ。
豊富でない国家研究費予算から3兆4000億ウォンが削減されても、政策担当者も政界も深刻に思わない。
その上で韓国からノーベル賞が出てこないとして糾弾する。

ノーベル賞を作るのはカリコ博士のように10年間成果のないまま井戸を掘り続けても抱えてくれるインフラなのに、
木になった実を見るだけでそれを育てた土地や農夫の隠れた努力は考えない。
韓国にはカリコ博士のような「不良研究者」を抱える所はない。
有能な若い研究者が基礎科学研究にまい進する「愚かな冒険」をどうしてするだろうか。

韓国は「ノーベル賞後進国」だ。ノーベル賞を取れなくて後進国なのではなく、
ノーベル賞を取れるほどの人材を枯死させるので後進国だ。
韓国の人材だけでなく他国の人材まで引き込んで抱える研究インフラを作ることが本当に不可能なことなのか、
カリコ博士のノーベル賞受賞のニュースを聞いていま一度考えてみる。

イ・ジェヨン/ソウル大学英語英文学科教授、元人文学部長
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2023.10.10 09:49
https://japanese.joins.com/JArticle/309940