ー前略ー
● 中国の社会システムからはじき出される日本人

 この夏中国へ渡航した日本からの出張者が続々と帰国した。現地事情についての情報交換が行われる中、
長年にわたり日中間を往来する出張者が異口同音に語るのは「中国の現状は想像を超えていた」ということだ。

 北京に出張した人は、北京五輪当時、急ピッチで新設された北京首都国際空港のターミナルについて
「ほこりまみれで劣化が激しい」と驚いた。
また、上海に出張した人は、宿泊先の老舗ホテルについて「コロナ禍の消毒液の影響で壁やエレベーターのボタンがボロボロ」と、
痛ましい変化に眉をひそめる。今や住人がいなくなった「幽霊マンション」はどこにでもあり、企業倒産も珍しくない。

 出張した日本のビジネスパーソンたちが問題にしたのは、景気の悪化だけでなかった。

 2010年代に上海の現地法人で総経理を務めた経験のあるA氏は、
「中国はもう外国人が生活できる場所ではありません。現地に信頼できる中国人がいなければ、
外国人は“行き倒れ”になるリスクさえあります」と、中国出張を振り返る。

 「コロナ前まで、私は中国の決済アプリでキャッシュレス決済を行っていましたが、
今回の渡航では銀行認証が厳格化されて使えませんでした。訪問先の中国東北部でも現金はほとんど使えず、
必要なものは友人の中国人のスマホで立て替えて買ってもらいました」

 買い物先や観光地、タクシーや鉄道で――中国社会で成熟する決済システムや予約システムから
すっかりはじき出された出張ベースの外国人は、現地に家族や親類、友人がいる場合を除いて、相当の不便を強いられるという。

 「外国人が強いられる不便さ」はすでにビザ申請の時点から始まっていた。
福岡県在住のB氏は「ビザ申請書には昔の職場の上司の連絡先どころか、他界した親の情報まで記入させられ、
申請書を提出してからは3回も修正させられました」とあきれる。複雑な申請は外国人を遠ざけるには効果的だ。

● 「反スパイ法」の裏に“外国人アレルギー”
ー中略ー

 中国では国家安全部による「怪しい活動をしている人物がいればただちに当局に通報せよ」とする文書がネット上に掲載され、
7月以降、国民を動員しての“スパイ封じ込め”が一段と強化されるようになった。

 浮き彫りになるのは外国人への警戒だ。中国政府は「外国には、中国の社会主義制度を転覆し、
台頭を阻止したい勢力が存在する」という認識を持ち、スパイは外国から送られてくることを想定している。

 実際、近年中国では、全く知らない外国人がメールやSNSを使って中国人に接触し、
中国の軍事機密を調べさせる「スパイ行為」が後を絶たないと中国メディアが報じている。
ー中略ー

 「スパイはどこにでもいる」と中国当局が警戒を強める中、この「反スパイ法」は間違いなく日中間の交流の分断を招くだろう。
互いに「あの人はスパイかもしれない」と疑心暗鬼になり、痛くもない腹を探り合う、そんな嫌な世の中の到来を予感させる。

 山崎豊子氏の小説「大地の子」では、主人公の残留日本人・陸一心が文革中に「日本人である」という理由で
無実の罪を着せられ、文化大革命の嵐の中、僻地の労働改造所に送り込まれるシーンがある。

 何がどう災いするかわからない、あの混沌とした社会への逆戻りは止まらないのだろうか。
少なくとも、私たち外国人が「容易に足を踏み入れることができなくなった国」という意味で、
今の中国は文化大革命が始まる前夜をほうふつとさせている。
姫田小夏

全文はソースから
10/14(土) 6:02配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/b6125fdb232bb4b80da0e08c1be8960a2868039a