[世界秩序の行方]第4部 産業政策<5>
 日本企業が有する高度な機微技術は、軍事転用をもくろむ中国などの他国に虎視たんたんと狙われている。

日本発の先端技術に資金の壁…100億円超集めたスタートアップ「政府の最後の一押し必要」

 中国でリチウムイオン電池事業に関わる日本企業は数年前、現地法人に関する行政手続きの際、
中国政府の「国家市場監督管理総局」から、「独占禁止法の審査のため」として、部品製造に関する機微技術の開示を迫られた。

 本来不要なはずの情報の開示要求に企業側は抵抗したが、当局の要求は繰り返された。
最終的に、この企業は事業継続のため、情報提供に至ったという。

 パソコンなどに使われるリチウムイオン電池は軍事転用も可能だ。
政府関係者は「日本に技術的優位性があるため、中国が狙ったのではないか」と分析する。

 海外への技術流出のルートは様々だ。中国人留学生らを経由したり、日本人研究者を中国側がリクルートしたりする例などもある。

 官民で多くの機密事案を調査している日本カウンターインテリジェンス協会の稲村悠代表理事(39)は昨夏、
防衛関連企業から「転職者が情報を持ち出したようだ」と相談を受けた。

 調査すると、転職者は防衛装備品の図面を知人の日本人に渡しており、この日本人は知人の中国人を介し、
中国共産党の有力者と関係していた。図面が同党に渡った可能性は否定できない。

 革新めざましい機微技術を巡っては、流出の警戒が必須な一方、国内外の信頼できる企業との共同開発も重要性が増している。
経済安全保障上、その信頼を担保するのが「セキュリティー・クリアランス(適性評価)制度」だが、
日本に制度がないため、日本企業は多大な不利益を被っている。

 制度は、政府が政府職員や民間企業の従業員に、重要と指定した情報に触れる権限を与える仕組みで、
日本を除く先進7か国(G7)で導入されている「海外で共同開発に参加するチケット」だ。
デュアルユース(軍民両用)技術に関する海外の学会の多くは「クリアランス保持者のみ」に参加を限定しており、
日本人研究者は最新技術に触れることすらできない現状がある。

 国内のある大手製造業はシステムの共同開発を巡って欧米企業と約4年間かけて交渉したが、頓挫した。
日本に制度がないため相手企業の機微情報を得る権限がなく、対等な情報共有ができなかったためだ。
同社幹部は「早期に制度を整えなければ、日本企業は多くのビジネスチャンスを失う」と、危機感を募らせている。
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2023/10/16 05:00
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20231016-OYT1T50028/