中国で高齢者問題が深刻だ。住宅市況の悪化で高齢者の介護は後回し、息子や娘との関わりが薄れ、自殺を選択する高齢者もいる。都市部の中間層の中には、家族の介護で金も気力も使い果たした人もいる。中国では近年、介護保険制度の導入とともに民間企業が市場参入し、中間層向けサービスが始まったが、果たして「介護の負担」が軽くなる日が来るのだろうか。(「China Report」著者 ジャーナリスト 姫田小夏)

● 金欠で親の面倒を見る資金がない、農村部で増える高齢者の自殺

 10月16日放送の『月曜から夜更かし』(日本テレビ系)で中国・四川省の高齢者が取り上げられた。公園にいるのは子どもではなく高齢者ばかりで、誰もが健康の維持に必死だ。同番組はおしゃれに夢中のゆとりある高齢者や、社会から取り残された孤独な高齢者を映し出していた。

 取材を受けた老婆の一人がこう言った。「生きてるってより、死んでないだけだ」――。この“名言”がほのめかすのは、中国の高齢者に潜在する壮絶な老いとの闘いだ。

 今、中国である論文が一部の人々の関心を集めている。2008年に行った湖北省の6つの村の調査を基に高齢者の自殺と世代間関係を扱ったものだ。論文は、「1980年以来これら地域で高齢者の自殺が増加し続けている」と指摘している。

 しかし、2000年代に執筆されたこの論文が今再び注目されているのはなぜなのだろう。「それは近年この問題がさらに深刻化しているからです」と湖北省武漢市に住む会社員の魏さん(仮名)は言う。

 「農村部の高齢者の自殺は、息子や娘の労働環境に左右されます。彼らは経済が落ち込む中国で、給与が下がり、リストラされるなど大変苦しい思いをしています。とてもじゃないが、親の医療費や介護費用まで面倒見られない。私自身も、思い余った老人の自殺の話題を聞いたことがあります」(同)

 さらに、都市部の労働者として出稼ぎに行った息子や娘に追い打ちをかけるのは、住宅市況の悪化だ。彼らは、親戚からかき集めた頭金の返済や銀行への住宅ローン返済という借金を負っており、親の面倒からはますます遠ざかる。

 中国では世代間ギャップも進み、「親孝行」という美徳も薄れつつある。親の危篤の知らせを受けて故郷に駆け付けた若者は、目の前の病気の母親に治療を与えないどころか、なかなか死に至らないことにしびれを切らし「まだ死なないのか」と漏らす。それを聞いた母親は殺虫剤を飲んで自殺した――そんな悲劇を伝える中国語メディアもある。

 さらに取材すると、悲惨な中国の実態が浮かび上がってきた。

● 「ヘルパーさんは高くて雇えない」、家族にのしかかる介護

 今回取り上げるのは、一級都市と言われる中国・上海での話だ。介護保険制度が緒に就いたばかりの上海で、中間層の人々が直面する在宅での介護の実情である。

 2021年春、上海在住の汪さん(仮名)は70歳で他界した。病名はパーキンソン病で、2000年代終盤から悪化し始めた。全身の筋肉が硬直する病気で、徐々に動作が緩慢になり、便秘や頻尿になるともいう。難しい病に苦しむ夫を介護したのは妻の黄さん(仮名、中国では夫婦別姓)で、いわゆる「老老介護」である。

 汪さんが亡くなる3年前から、黄さんは壮絶な介護の日々を送っていた。2018年、パーキンソン病の症状改善を期待して「脳深部刺激療法」を選択。医者の勧めで30万元(約600万円)する米国製の機器を購入し、皮下に埋め込む手術を行った。

 中国の医療保険制度では、30万元のうち5万元が保険適用になり、黄さんの息子が残り25万元(約500万円)を自費で負担した。ところが後になって機器はうまく取り付けられていなかったことが判明する。しかし医者は「体は人それぞれ違う」とけんもほろろだった。これだけ発展した中国でも、中間層にとっての安心できる医療は程遠い状況だ。

 2019年、汪さんの症状はさらに悪化し、食事は鼻から管を入れて栄養を送り込む「経管栄養」に切り替わった。服薬の錠剤をつぶし、注射器を使って管に注入するのも黄さんの仕事で、黄さんは「とても面倒だ」と音を上げた。中国では看護師の仕事の範囲は限定的なのだ。

 また、中国は日本と異なり完全看護ではなく、家族が付き添い、身の回りの世話を行うのが通例だ。家族ができない場合は、ヘルパーを雇い、体の洗浄、寝返り、排便などの対応をしてくれるが、問題は人件費の高さだ。

(略)

 「医療費が高額すぎる中国ではがん治療を諦める人もいます、だから高齢者は病気にならないように必死に運動するんです」と黄さんは言う。中国の公園に高齢者が多い理由はここにある。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/368b0fa0e8311ccbf56e6642b1222af74498dded?page=1