北欧のバルト海で先月、ガスの海底パイプラインと通信ケーブルが破損される事件が起きた。
フィンランド警察は中国のコンテナ船が引き起こしたとの見方を強め、「意図的な行為」の疑いもあると発表した。
ロシアのウクライナ侵略と並行し、バルト海では海底インフラが壊されるナゾの事件が続いており、
北大西洋条約機構(NATO)は警戒を強めている。

パイプラインはフィンランドとエストニアを結び、全長約77キロ。フィンランドはロシアのウクライナ侵略後、露産ガス輸入を停止しており、
欧州連合(EU)の供給網とつながる重要ラインの一つだった。
通信ケーブルはエストニアとフィンランド、スウェーデンをそれぞれ結ぶ2本で、各1カ所で切られているのが見つかった。
パイプラインと通信ケーブルの計3つの破損「事件」は、いずれも先月7日から8日にかけて起きた。

パイプライン破損を捜査していたフィンランド警察は先月24日、現場付近で発見された錨(いかり)によるものとの見方を発表した。
海底には錨を引きずった痕跡が残っており、航路記録から香港籍の中国コンテナ船「ニューニュー・ポーラー・ベア(新新北極熊)」
が浮上したと名指しした。この船は捜査協力の要請に応じていないという。

通信ケーブルについては、主にエストニア当局が捜査中。同国の公共放送ERRによると、現場付近で中国コンテナ船のほか、
ロシアの原子力砕氷船が航行していたことが判明している。エストニアのカラス首相は「一連の事件は関連している」との見方を示した。
中国コンテナ船が原因だった場合、「中国は国連海洋法条約の加盟国として、法的措置をとらねばならない」とも述べた。

通信ケーブルは10月末に運営会社が「復旧した」と発表し、通信障害に至らなかった。
パイプライン損傷でもガス供給への影響は出ていないが、NATOは事態を重く見た。
早期警戒管制機(AWACS)を出動させて、バルト海のインフラ監視を強化した。
バルト海では昨年9月、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインが何者かの「破壊工作」で損壊する事件があったばかりだからだ。

昨年9月の事件は大規模なガス漏れを引き起こし、スウェーデンやデンマークが一時、沖合の航行を禁止する騒ぎとなった。
ドイツ誌シュピーゲルは今夏、親ウクライナ派が犯行に関与した可能性があると報じたが、ウクライナ政府は関与を否定しており、
真相は明らかになっていない。

北欧諸国が敏感に反応した背景には、中国がバルト海で存在感を強めていることもある。中国はロシアと合同軍事演習を行ってきた。
北海からの中継点となるドイツ北部ハンブルク港では今年、中国の国有海運企業が一部権益を取得したばかりだ。

一連の事件を受け、中国外務省報道官は10月23日の記者会見で、フィンランド当局と事件をめぐって接触していると述べた。
中国コンテナ船が当時航行していたことには「何ら不自然なことはない」と主張。客観的で正確な捜査を行うよう求めた。 
(三井美奈)

2023/11/7 09:47
https://www.sankei.com/article/20231107-TRVYKKKFJNNTNJ6JWM3Y2TBBD4/