景気刺激策が奏功しつつある?

 11月7日、IMF(国際通貨基金)は中国のGDP成長率予測を改定し、2023年は5.4%、2024年は4.6%だとして、いずれも10月の「世界経済見通し」報告書で出した予測を0.4ポイント上方修正した。バブル崩壊と言われているのに、中国経済は本当にそこまでの力強さを発揮しているのだろうか。

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 それにしても、不動産業上位100社の売上がマイナス11%なのに、不動産業全体のGDP寄与分のマイナスが0.9%にとどまっているというのは、冗談だとしか言いようがない。

 興味深いのは、不動産バブルの崩壊が指摘される中で、固定資産投資は前年比3.1%増加していることだ。これは不動産開発は落ち込んでいるが、インフラ投資が6.2%も増えていて、これが牽引しているからだということになっている。

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 このように、城投債によるにせよ、土地使用権の売却によるにせよ、地方政府は十分な資金調達ができないのに、インフラ投資が6.2%も増えるなんてことが起こりうるのだろうか。

 そもそも中国の地方政府は今、公務員の給料の支払いにすら困っている有様だ。中国全土でもっとも経済状態がいい上海ですら、給料が20%以上減った。役職によっては40%近くも減ったと報じられている。何ヵ月も給料が支払われていないという公務員のデモすら各地で起こっている。そのくらい中国の地方政府の財政は火の車だ。

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 この点について、貿易の状況からも考えてみよう。中国からの輸出は、今年の5月から前年比マイナスに転じて、ずっとマイナス状態が続いている。ということは、増加したはずの生産は輸出に回っているわけではないことになる。

 もちろん仮に国内需要が強いのであれば、輸出が増えなかった分が国内に流れたのだと考えることはできる。実際、統計上は中国の小売売上高は前年比5.5%の増加となっており、内需は強いということになっている。

 だが、輸入統計を見ると、そんな話がたちまち破綻する。輸入は10月を除いて、今年の3月から前年同期比でマイナスで推移してきたのだ。国内需要が強いのであれば、輸入は増えているはずなのにだ。

5%も経済が成長しているはずなのに

 さらに矛盾する統計がある。中国財政部に掲載された、今年の1-9月の税収だ。これがほぼ軒並み減収となっているのだ。

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 中国には「国内増値税」とは別に「国内消費税」というものがある。こちらは贅沢品や嗜好品にのみ向けられた間接税だ。こちらは前年同期比で4.9%落ち込んでいる。これを文字通り解釈すれば、小売売上高は前年比で5.5%も増えたのに、贅沢品・嗜好品だけ消費が落ち込んだということになる。そんなことが起こるだろうか。

 「企業所得税」は日本の法人税に相当するが、これも前年同期比で7.4%の減少となった。個人所得税も0.4%の減少となった。輸入貨物の増値税と消費税は、前年同期比で7.3%のマイナスで、関税は12.1%のマイナスだ。

 こんなことが、5%程度の高い経済成長をしている国でどうやって起こるのだろうか。

 日本のシンクタンクの中国経済ウォッチャーたちは、中国政府の出してくる数字を正しいと考えた上で、次に中国政府が発表する数字になるべく近い数字を出すことを目指して努力してきた。だがそれは努力の方向が間違っているのではないか。

 中国経済の実態は、中国政府の発表とは全く違っていて、実際にはマイナス成長に陥っているということを、きちんと指摘すべきではないか。ゆめゆめ中国経済に幻想を抱いてはならない。

朝香 豊(経済評論家)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8de887dd10b77607fe0723b12c5c2426378fd250?page=1