為替の円安が、防衛力強化の支障となっていると報じられている。為替の想定はどうなっているのか、対策はないのか。

防衛省は2023年度から27年度まで防衛力整備計画を策定している。
計画1年目の前提為替レートは1ドル=137円だが、2年目以降は108円としている。
ドルベースだと防衛費の3割以上が目減りするため、輸送ヘリコプターの調達数を半減させ、救難飛行艇の取得を見送った
と報じられている。これが事実であれば、ゆゆしき事態だ。

まず円安に対抗するには、輸入だけではなく輸出をするのが鉄則だ。

防衛装備品の輸出ルール「防衛装備移転三原則」の見直しをめぐり、与党の実務者協議がある。
現状、輸出が認められているのは「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘5分野で、これに地雷処理とドローン対処、
教育訓練を追加する方針で検討が進められている。
また、英国やイタリアと一緒に開発している次期戦闘機を念頭に、共同開発した装備品の
第三国への輸出もできるようにすべきだとの意見もある。

与党の実務者協議では、公明党がいるので、殺傷能力のある装備品の輸出をどこまで認めるかについて難航してしまう。
過去にも、オーストラリアへの潜水艦の輸出や、インドに対して水陸両用機を出そうという話も頓挫してしまった。

今のルールは、輸出できる分野を限定列挙する「ポジティブリスト」に基づき、ゆっくり進めるやり方だが、果たしてこれでいいのか。
輸出してはいけないという「ネガティブリスト」を作った方が、議論として建設的だと思う。

たとえば、国際条約などで禁止されているABC(核、生物、化学)兵器はダメだが、それ以外は原則いいという形式が考えられる。
もちろん、このネガティブリストは頭の体操であるが、少し発想を変えてみたほうがいいだろう。

もう一つの円安の対抗策は、外債投資だ。円安で輸入代金がかさむが、外債投資すればその投資収益で相殺できる。
これは民間企業でもしばしば行われている円安対抗策だ。

実は政府には外国為替資金特別会計(外為特会)があり、実際に外債投資を行っている。
23年度予算では、22年度末予定額として外貨証券残高は143兆円となっている。
かなりの円安なので評価益は30兆円以上あるはずだ。
また23年度から防衛力強化一般会計への繰り入れが1・2兆円予定されているが、
24年度以降はこの評価益を利用して、さらに繰り入れればいいだろう。

政府は外為特会というものを持ち、円安メリットを享受しながら、
円安を理由として実質的な防衛力強化を渋るのはさっぱり理解できない。
防衛力強化については、「台湾有事は日本有事」であり、台湾有事が喫緊の課題であることなどから国の根幹に関わる重大事だ。
国の別のポケットに財源があるのに使わないなんて、あり得るのだろうか。
国防をないがしろにして、外債投資での円安メリットを使わないのは大問題である。
(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

2023.11/17 11:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20231117-WMIVFAC3ENPTDEA6WIQI6QFRPM/