ー前略ー
若者たちは、どうして日本留学を選ぶのか。生徒全員が日本の高校留学を目指す上海郊外の学校を訪ねた。(上海で、伊藤完司)

【表】日本に留学する中国人学生の推移
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 「何で食べますか? お箸で食べます」

 1年生の女子生徒が教科書の中国語を訳して答えると、中国人の女性教員は「よくできました」と笑顔を見せた。

 2年生の教室では、日本人教員が日本語で化学を教えていた。生徒たちが留学しても困らないように、
教員は日本の授業と同じスピードで話しているのだという。

 上海市の中心部から車で約40分の郊外にある「信男(しんなん)教育学園浦東校」では、
日本留学を希望する約120人の生徒が学んでいる。

 同校で高校1、2年生の授業内容と日本語を学んだ後、姉妹校として提携している日本の高校に2年生の途中から編入する。
日中両国で新学期の時期がずれているので3年半で高校を卒業し、大学に進学できる。同校は「2+1・5システム」と呼んでいる。

 「日本のアニメと文学に興味があり、太宰治の『人間失格』が好きです」

 「日本のゲームが好きだし、日本のアニメ文化をもっと知りたい」

 「日本と中国は距離も近く、文化も似ている。『Love Letter』(1995年)などの日本映画も好き」

 在校生に聞くと、真剣な表情で志望動機を聞かせてくれた。

 同学園は、日本の大学に留学経験がある魯林(ろ・りん)理事長が、2010年に上海にある高校の「日本留学コース」として開設した。
魯さんは「道徳心や人間教育を重視する日本式の教育に感銘を受け、中国の学校にも取り入れたいと思った」と振り返る。

 開設後、生徒数は右肩上がりに増え、今では上海2校、広東省深圳2校、湖南省1校の計5校を運営し、約700人が学んでいる。
日本の姉妹校も全国で24校、九州で7校に増えた。

 中国では高校や大学の受験競争が過熱している。高校生の子どもを持つ50代男性は
「学校から大量の宿題を出されるので、毎日親が手伝わないと、子どもが授業についていけない」と嘆く。
学業の成績が重視される一方で、若者の非常識な振る舞いやトラブルが社会問題となり、21年に成立した「家庭教育促進法」には、
親の子どもに対するしつけが事細かに書き込まれた。

 同学園は身の回りの整理整頓や掃除、あいさつなど日常生活の指導を徹底する「日本式教育」を売りにしている。
浦東校には10人の日本人教員が在籍し、クラスの担任を受け持ち、生活指導に当たる。
浦東校の姚蕾(よう・らい)校長は「日本社会に溶け込むためには日本の文化を理解する必要がある。
日本の姉妹校に迷惑をかけないように、しっかりと指導している」と話す。

 学費は年間12万8000元(約270万円)。日本人教員が1年生を教える際には中国語の通訳も付く。
23年度入試では同校の卒業生2人が九州大、5人が立命館アジア太平洋大(APU)、各1人が熊本大と福岡女子大に合格したという。

 日本学生支援機構の調べでは、中国から日本への留学生は19年に約12万4000人に達し、
コロナ禍で減少したものの、22年は約10万4000人に上る。

 日本への留学熱が冷めない背景には米中対立の激化がある。米国への留学を避ける生徒が多く、
米メディアはコロナ後、中国人留学生が減少したと報じている。
10代の子どもを持つ北京の中国人男性は
「米国に子どもを行かせるのは心配だし、欧州は遠い。日本との関係も良くはないが、近くて米国よりも安心できる」と話している。

 中国のある教育関係者は「中国国内の激しい受験競争を嫌って、子どもを日本に留学させる保護者も少なくない」と指摘している。

11/27(月) 9:40配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6ef5b343a5eb2b6633b4377f7483b0a9ecc7160b