岸田文雄首相は、来年9月までの自民党総裁任期中の憲法改正実現を目指すと繰り返している。
10月23日の臨時国会の所信表明演説では
「条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待します」と述べた。

月刊誌「Hanada」12月号のインタビューでは「議論を増やしてもう1段階、いや2段階ギアをアップして進めたい」
「(憲法改正原案の発議は)各党の協力を得なければならないが、一方で自民党が先頭に立っていかなければならない」としている。

11月22日の衆院予算委員会では、自身が掲げる自民党総裁任期中の憲法改正について、
「任期中」とは2024年9月末を指すとの認識を示した。

しかし、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は同27日、国会内で開かれた「憲法審査会に改正原案の作成を求める緊急集会」で
「この段階になって条文の整理もできていない」と岸田政権を批判した。
どうも、スケジュールの終わりを切ってそれまでに逆算し、いつまでに何をすべきかの具体的な工程はまだできていないようだ。

来年1月には台湾総統選がある。それ以降、中国が台湾統一をもくろむ公算が大きい。
その際、「台湾有事」が発生するだろうとも専門家の間では予想されている。
そのときは、安倍晋三元首相が喝破したように「日本有事」でもある。
具体的には、中国が台湾を海上封鎖すれば、おのずと日本は巻き込まれる。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、フィンランドは北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、スウェーデンは加盟手続き中だ。
NATOは第二次世界大戦後、一度も戦争を仕掛けられておらず、世界一の安全網だといえる。
自国による防衛は当然として、その上で頼るのは同盟だ。「防衛」と「同盟」により戦争確率はかなり低下する。

日本は自国による防衛のほか、今のところ日米同盟しかない。
米国は日本に現憲法を押し付けた歴史的な経緯もあり同盟関係にあるが、日本が中国と有事になったとき、
どこまで集団的自衛権を行使するかは分からない。
かといって、日本がNATOなど他の同盟を結ぼうと思っても、日本には憲法上の制約があり無理だろう。

というわけで、憲法を改正して、完全な集団的自衛権を獲得しないと国の安全が確保できないというのに、
どこまで日本は危機意識が低いのだろうか。

最大の問題は、政権与党として公明党がいることだ。公明党は憲法9条の堅持を掲げている。
今の自公政権ではなかなか進展しないだろう。

仮に発議までいったとしても、国民投票は国政選挙と同時に行われる可能性がある。その際、自公政権はおそらく股裂き状態になる。
ということは、自民党には、連立の枠組みを直してでも憲法改正に踏み切る気があるのかが問われることになる。

安倍政権では、憲法改正では日本維新の会をパートナーとみていたふしがあった。しかし岸田政権ではそうした兆候は全くうかがえない。
 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

2023.12/2 15:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20231202-UA3MO7MT7BOPHBTCN44FLNXLSI/