大阪万博の大混乱を「他山の石」にすべきでは? (平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

ー前略ー
・サウジアラビアに大敗したワケ
 一方で、誘致戦にあたって、韓国政府がどれだけ対策を練り、準備をしてきたのかについては疑問だ。広報動画を見ても、10年以上前に世界で大ヒットした「江南スタイル」のPSY(サイ)、そして1980年代に帝王と呼ばれた指揮者カラヤンに認められたソプラノ歌手チョ・スミなどが登場しはするものの、それはいわゆる「K-カルチャー」であり、自国の伝統文化の深さをアピールできてはいない。

 これは、文政権以降、現在の韓国政府に引き継がれる現代的な文化を発信する、欧米化された「ナウな韓国」というイメージをそのまま動画コンテンツに納めたものだ。しかし、万博は各国の伝統と現代が交差するイベントである点を考慮すると、それでは説得力に欠ける。
ー中略ー

・「先進国」の一員になりたい
 それにしても、どうして韓国政府は文政権時代からこれほどまでに釜山への万博誘致に熱をあげたのだろうか。一つの理由は、ソウルへの一極集中から、釜山との二極化への転換を狙っているからである。例えば、釜山近郊に新空港の建設が進められている。万博はそれを推し進める手段になりえると見込んだのだ。

 それだけではない。韓国は文大統領時代の2021年7月に国連貿易開発会議(UNCTAD)で「先進国」に初めて分類された。そして今年5月に開かれた広島サミットの前にはサミットの正式なメンバーになれるのではないかという勇み足の報道も飛び出した。つまり、韓国社会は自国が先進国として確固とした地位を築きたいと考えている。

 釜山万博の開催は韓国にとって、名実ともに「先進国の仲間入り」をするための悲願だった。万博には主に「科学」「海洋・環境」「世界」の3つのカテゴリーがある。朝鮮日報によれば、そのなかで「世界」万博は最も格式が高い。韓国ではこれまで大田科学万博、麗水海洋万博が開かれており、今回の釜山万博は念願の「世界」万博になるはずだった。しかも、この3つのカテゴリーを全て開催したのは、主要7カ国(G7)サミットのメンバーのなかで、日米加独仏伊の6カ国のみであるという。

・大阪万博の混乱を他山の石に
 このような先進国としてのメンツをかけた戦いが、今回の誘致失敗で終わるはずもない。朴亨凵iパク・ヒョンジュン)釜山市長は、さらに5年後の万博誘致への意思を表明している。

 だが、2025年開催予定の大阪万博では開催費用が膨れ上がっているほか、資金の問題で参加を辞退する国が出るなどして日本社会を揺るがしている。その混乱ぶりについては、当然ながら韓国でも報じられている。

 そればかりか、韓国社会の将来も危ぶまれている。極度の低出生率のほか、それに伴う経済の萎縮、さらに国際通貨基金(IMF)が先月、年金崩壊への不安を警告するなど、問題が山積している。

 そのためか、誘致失敗に対して、韓国の国民は至って冷静だ。むしろ、「社会不安があるのだから誘致できくて良かった」という声さえある。

 韓国在住の日本人からすると、もはや万博などに頼らずとも諸問題を解決できる道筋を探るべきだと思うのだが。

全文はソースから
JBpress 2023.12.3(日)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/78233