「映画という文化を国民みんなが愛し、その価値を上げていこうというリスペクトが感じられて。
観客もまた映画人であるというような感じがしました」。
この10月に開催された釜山国際映画祭でそう語るのは、主演作『福田村事件』が出品された田中麗奈さん。
同作は、関東大震災から100年目の9月1日に公開され、現在も上映館を全国に広げながらロングラン中の話題の作品です。
関東大震災直後、千葉の小さな村で起こった「日本人による日本人の虐殺事件」を描いた同作が、
韓国の映画祭で上映されることには大きな意味があります。
というのも映画の背景には、同じ時期に起こった「日本人による朝鮮人の虐殺」があるから。
日本史のタブーに切り込んだこの作品の大ヒットに、韓国での上映に、田中さんはどんなことを思ったのでしょうか?

田中麗奈さんを釜山国際映画祭・直前の会場でドラマティックにとらえた写真も
https://mi-mollet.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/670w/img_a9486d7b55272e8cc63186fdfd337ebd131849.jpg

田中麗奈
1980年5月22日生まれ、福岡県久留米市出身。
映画「がんばっていきまっしょい」('98/磯村一路監督)で初主演し、日本アカデミー 賞新人俳優賞など多数受賞。
映画「はつ恋」('00年/篠原哲雄監督)、 「幼な子われらに生まれ」('17年/三島有紀子監督)などで受賞多数。
映画・ドラマ・舞台など幅広く活動している。

日本の植民地時代の記憶が残る韓国で、これが上映されるなんてすごいこと
田中麗奈さん(以下、田中):韓国でこの映画が上映されるなんて、すごいことだと思います。
ちょっと大丈夫なのかなっていう気もするし、韓国の方々がどういう反応をされるのかなと。
日本の植民地時代にどんな差別があったのかという時代背景については、私たち日本人よりよく知っていらっしゃると思うんですが―
―でもそれとはまた別の、集団心理の恐ろしさや、「自分たちとは違う」というだけで加害者になってしまうこと、
誰もがつまらない流言飛語に躍らされ恐ろしいことをしかねないということ……そういう部分を、もしかしたら見てくださるかもしれないですね。

10月初旬の釜山国際映画祭での『福田村事件』の上映を前に、そう語った田中麗奈さん。
蓋を開けてみれば『福田村事件』は、メインコンペ部門の最高賞「ニューカレンツ賞」を受賞、
韓国の観客から高い評価を獲得できたと言えそうです。

映画が描くのは、100年前の関東大震災直後に起きた「日本人による日本人の虐殺事件」。
千葉県の小さな農村を訪れていた四国の行商の一団が、「よそ者」であるがゆえに朝鮮人と疑われ、殺害された事件です。
映画は「日本人の虐殺」を描きながら、その背景にある「朝鮮人の虐殺」を静かに告発します。

田中:この映画に関わるまで、こんな恐ろしい事件があったなんて全然知りませんでした。
関東大震災の後に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言飛語に煽られ、
罪のない多くの朝鮮の方が命を奪われたことは知っていましたが、それが特定の場所のみならず日本の至るところで起こっていたこと、
さらに相手を「朝鮮人だろう」と疑った日本人同士で殺し合いが起きていたということー
ー出演するにあたり、参考となる映画を見たり、韓国大使館に行って資料なども色々見たりしましたが、
なんというか、言葉にならないおぞましさでした。そんな負の連鎖が続いていたなんて、本当に苦しいです。

撮影/Minyoung Ahn(STUDIO DAUN)
取材・文/渥美志保
コーディネート/Shinhae Song(TANO International)
構成/坂口彩

mi-mollet 12/2(土) 20:32配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/50dc6d9e19f2dad6128095b791e58d9f04e3ed63