銀行に圧力を強める中国政府

 最近、中国政府は銀行に不動産企業への融資を増やすよう圧力を強めている。

 不動産バブル崩壊で苦しむ、大手不動産業界救済を目論んでのことだ。

 碧桂園(カントリー・ガーデン)や恒大集団(エバーグランデ)などの不動産企業の資金繰りは悪化し、その“つけ”が物件の未完成などの形で国民の不満になっている。

 中国政府は、国民の不満を和らげるため銀行融資を使おうとしているのだろう。バブル崩壊後に、どこの国でも見られる常套手段だ。

 不動産不況対策として銀行に圧力をかけ融資を促進する一方、追加の利下げなど金融緩和も強化した。

 銀行の負担で不動産バブル崩壊を乗り切ろうということだろう。

 約30年前、わが国でも住宅金融専門会社(住専)の不良債権問題が深刻化した際、政府は銀行の負担で問題を乗り切ろうとした。

 ただ、多くのケースで、その試みはうまく行かなかった。

景気停滞化は長期的に
 バブルが崩壊後、不良債権処理のため最終的には公的資金の注入が必要になる。

 実施のタイミングが遅れると不良債権の残高は累増する。景気は停滞し、雇用・所得環境は悪化していく。

 デフレ圧力も高まり、不良債権問題は深刻化する。足許のバブル崩壊への対応を見る限り、中国経済の厳しさは増し、景気の停滞は長期化する可能性は高いとみられる。

 2020年8月、中国政府は“3つのレッドライン”と呼ばれる不動産融資規制を実施した。それから、不動産バブルは崩壊の一途を辿った。

 カントリーガーデンやエバーグランデなどの不動産デベロッパーは、事実上、経営破たんに近い状態に陥っている。

 中国政府は迅速に銀行、不動産企業、地方政府傘下の“地方融資平台”などに公的資金を注入し、不良債権処理を進めることが必要になるだろう。

 公的資金注入のスピードは、バブル崩壊後の景気動向に大きく影響する。リーマンショック発生直後、米国政府は迅速に大手銀行などに公的資金を注入した。

 一時、大手自動車メーカーのGMなどは国有になった。2009年3月に米国の株式市場は底を打ち、不安定さを残しながらも景気は徐々に持ち直した。

金利を下げても効果なし
 一方、中国政府は一貫して、市中銀行に不動産業界などへの融資を増やすよう圧力を強めている。

 11月17日、中国人民銀行(中央銀行)と国家金融監督管理総局、中国証券監督管理委員会(証監会)は金融機関に、不動産企業に対する融資を強化するよう通達を出した。

 社債の発行、株式発行による資金調達を支援せよとの指示も出した。民間の経営の失敗は、民間で対応せよとの政策スタンスは厳格に見える。

 しかし、度重なる融資積み増し圧力の高まりにもかかわらず、中国の新規融資実績は思うように伸びていない。

 中国人民銀行は利下げを行うなど金融緩和を実施したが、目立った効果は出ていない。中国経済はこれ以上金利を下げても新規の貸し出し(信用創造)が難しい状態に陥っている。

 今後も、中国政府は銀行に不動産業界への貸出促進の圧力をかけるだろう。共同富裕の考えを掲げる習政権は国民の不満に配慮するため、公的資金=税金を使った大手不動産デベロッパーの救済は難しいかもしれない。

 ただ、政府が銀行に圧力をかけたとしても、貸出先の経営体力低下が止まらない以上、大きな成果は見込めない。今なお中国の不動産市況に下げ止まりの兆しは出ていない。

医療、年金不安の増大
 むしろ、バブル崩壊への対応は遅れ、不良債権残高は雪だるま式に増える恐れが高い。

 不動産業界、その取引先などのデフォルトや破たんの懸念は高まるだろう。

 銀行は貸倒引当金を積み増し、融資基準を引き上げざるを得なくなる。雇用・所得環境の悪化は深刻化し、飲食や宿泊、交通などのサービス分野にまでより多くの負の影響が波及する懸念も高まる。

 約30年前、わが国はよく似た状況に直面した。住専問題の解決には公的資金の注入が必要だったが、政府は銀行に対応を求めた。

 結果、不良債権処理は遅れた。1997年11月、金融システム不安が発生し、わが国はデフレ経済に陥った。現在の中国政府の経済運営は当時のわが国とよく似ているように見える。

 中国の企業経営者、消費者のマインドの悪化は避けられないだろう。経済のデフレ傾向は強まり、景気は長期停滞に向かう可能性が高い。

続きはソースで

真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授)
https://news.yahoo.co.jp/articles/807ff64d3b518dce3ad342528bb23c49910cc23d?page=1