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 日露戦争においては、日本海海戦における艦隊決戦主義に持ち込んだ日本が功を奏したことなどが、大きな意味を持った。しかし、長期戦になれば圧倒的に日本が不利である条件が、それによって変わったわけではない。そこで戦場以外の要素も、日論戦争では、大きな意味を持った。

敵国に対する工作の不発

 第一に、敵国の国内情勢への働きかけの要素がある。長期戦になれば圧倒的に有利であることに間違いはなかったロシアが、日本優位の情勢での和平に応じた背景には、国内情勢の不穏があった。戦争の継続が、仮に戦場での動きについてだけ見れば合理性があったとしても、ロシア皇帝ニコライ2世の統治体制の継続という観点から見ると合理的ではなかったため、和平に応じた。

 日露戦争開始後のロシアでは、革命勢力が活発化し、血の日曜日事件や戦艦ポチョムキン反乱事件などの騒乱が相次いだ。その背景に、スウェーデンに拠点を構えて、ロシア国内の様々な抵抗運動組織と連絡を取り、資金や銃火器を渡し、デモやストライキ、鉄道破壊工作などのサボタージュの展開を促進していた明石元二郎らの工作活動があったことは、有名である。明石らの活動は、ロシア国内の反政府活動を支援するだけでなく、満州におけるロシア将兵への檄文等を通じた戦意喪失の工作や、ロシア軍の後方攪乱活動などにも及んだ。明石の活動は、日本が外国において行った最大の諜報工作活動の成功例として知られる。

 翻って現在の様子を見ると、ウクライナは、ロシア国内での政治工作に失敗している。ロシアの全面侵攻当初こそ、ゼレンスキー大統領がロシア語でロシア人に語り掛けるなど、プーチン統治体制とロシア国民を切り分け、ロシア国民の反戦の気運を喚起する工作に関心を持っているように見えた。またロシア人の反政府武装組織の蜂起と、直接は関わらないと述べながら、連動性を保っていこうとする動きも見られた。いずれも現在は霧消している。これらのロシア国内の工作の失敗の明白化は、戦場での成果の停滞と、軌を一にしている。

 現在のウクライナ側の様子は、ミサイル攻撃で相手のどこそこの施設を破壊した云々といった突発的な成果に一喜一憂する余り、相手の政治情勢に影響を与える手段を考える、という視点を、むしろどんどん希薄化させている。プーチン体制の強固さに直面して、政治工作を諦めた結果であるようにも見えるし、ロシア政府の挑発的なプロパガンダに反応して、ロシア国民全体を悪魔化する方向にウクライナの世論が誘導されてしまったようにも見える。

 モスクワやその他のロシア国内での反政府的な動きの欠落だけではない。ロシアが占領している地域における反占領運動やサボタージュ、輸送能力の損傷を狙った破壊活動なども、全く見られない。せめて占領の政治的負荷が大きくなれば、プーチン政権に占領統治の合理性を疑わせる大きな材料になるが、それが全く見られない。

 さらにはロシアから欧米系の企業を撤退させる運動をすることに躍起になり、ロシアと欧州の経済を切り離させることに多大な関心を持っていることが観察できる反面、ロシア国内世論に影響を与えるための経済制裁の効果を向上させる方法を精緻にする議論を深めようとしているようには見えない。

 結局のところ、プーチン大統領に侵略を諦めさせるには、個々の戦場での細かな勝利だけでは不足していることは、自明である。長期戦に持ち込めば総合的に国力で上回るロシアが圧倒的に有利である。それは、当初から織り込み済みの事実である。ウクライナが戦争の行方を有利に運ぶためには、プーチン大統領に、戦争の継続が、自らの政治体制の継続に阻害的な要因になっている、ということを感じさせなければならない。そのためにはロシア国内の政治動向や、少なくとも占領地における政治動向に、モスクワから見て負荷を感じさせるものを作り出さなければならない。ウクライナ側は、これに失敗しただけでなく、もはや関心すら失っているように見える。

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 日露戦争時の日本の経験と比せば、ウクライナは、もう少し軍事的勝利至上主義を中和するべきであるように思われる。もっとロシア国内の勢力への工作に力を入れ、有利な調停へとつなげる和平プロセスを構想し、欧米偏重主義に陥らない国際世論対策を行っていくことにも力を注いでいくべきであるように思われる。

全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/98c265dd6a5b2046f183c91500f32c256b7db2b9?page=1
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