作家でジャーナリストの門田隆将氏の最新作は、先の大戦末期の1945(昭和20)年7~8月に起きた
「尖閣戦時遭難事件」を世に問うノンフィクション『尖閣1945』(産経新聞出版、税込み1760円)だ。
11月15日の発売からすでに4刷と、反響は大きい。

石垣島から台湾へ向かった疎開船2隻が米軍機の攻撃を受けた凄惨(せいさん)な事件で、
大勢の女性や老人、子供たちが犠牲となったが、うち1隻は「魚釣島には『真水』がある」との言葉を頼りに尖閣諸島へ向かう―。

石垣島でも風化しつつあった同事件を門田氏が知ったのは10年以上前。
生還者の手記や関係者の証言を丹念に追う取材で、全容を蘇らせた。

・誰もが知っていなければいけないことを知らないのはおかしい
なかでも胸を打たれるのは、事件で命を落とした亡父を思い続け、遺骨が眠る魚釣島上陸を人生をかけて果たす長男の物語だ。
「無念の思いを飲んで亡くなっていった方々の遺骨が眠っている、日本にとって大変大きな意味を持つ島なのです。
誰もが知っていなければいけないことを知らないのはおかしい」と発掘した圧倒的な事実が持つ迫力は、
1970年代以降に領有権を主張し始めた中国にも、口を挟む余地を与えない。

決して尖閣にとどまる話ではないだろう。門田氏が言う「日本人が忘れてはいけない物語」を忘れ続けてきた結果はいま、
主体性も喪失し、自国民に重税を課して他国の戦費まで唯々諾々と支払わんとするわれわれの為政者に見ることができる。
「かつての日本人たちがいかに毅然(きぜん)として、国家観も哲学も持っていたか」。
洋上170キロ。同胞の命を救うため、自らの死も顧みずに一心にかいを漕いだ若者たちの姿を脳裏に描きながら、
魚釣島から石垣島までの距離を思った。 (報道部・丸山汎)

2023.12/25 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20231225-ECXJ3ZY43VOFRBHUB5P7TUTJB4/