13日投開票の台湾総統選は、与党・民進党の頼清徳副総統が制した。
直後、ジョー・バイデン米大統領が「米国は台湾独立を支持しない」と明言したのには少し驚いた。

米国はこれまで、台湾有事について、「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策を取ってきた。ところが、バイデン氏は一昨年5月、
東京での記者会見で、台湾有事が起きた場合に米国が軍事的に関与するかを問われ、「はい(YES)。それがわれわれの約束だ」
と回答した。「曖昧」から「明確」に転換したのではとも見られていたのだ。

頼氏は「中国との統一」でもなく「台湾の独立」でもない「現状維持」を表明しているが、中国は「独立派」と決めつけている。
バイデン氏が独立を牽制(けんせい)したのは、中国を強く意識してのことだ。
その中国は今年5月の総統就任式で、頼氏が何を語るかを注視している。

米アイオワ州では15日、11月の大統領選に向けた共和党の党員集会が開かれ、ドナルド・トランプ前大統領が初戦で圧勝した。
81歳のバイデン氏と、77歳のトランプ氏による「高齢対決」になった場合、どちらが台湾有事にリスクとなるのだろうか。

安倍晋三元首相が生前、ウクライナ危機について、「もし、トランプ大統領だったらネゴシエーター(交渉人)なので、
ロシアの侵攻回避のためにウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟などについて、徹底的にウラジーミル・プーチン大統領と
ネゴシエートしたと思う」と語っていたのを思い出す。

ある外務官僚は「バイデン氏は外交センスに自信を持っており、それが実は怖い」と言っていた。
トランプ氏の「意外な」現実主義と、バイデン氏の「曖昧」から「明解」への転換を思わせる発言を考えると、
バイデン氏の方がリスクは高いのではないか。

さて、日本の政治は今年どう動くのか。

昨年、岸田文雄内閣の支持率が下がり続け、自民党派閥のパーティー収入不記載事件が起きて、「政治への信頼」が
地に落ちてしまった。

「岸田首相は3月の予算が上がれば終わり」との声も上がっていたが、元日の能登半島地震でそれどころではなくなった感がある。
被災者の生活再建や被災地の復興、新たな地震への備えなど、政治の課題が山積しているからだ。

政治資金規正法の改正や、派閥のあり方なども決めるのは厄介な仕事だ。自民党は今トップを代える余裕はないので、
岸田首相の総裁再選も見えてくるかもしれない。

筆者は「岸田首相再選」に反対ではないが、心配なのはトランプ氏が復活した場合、岸田首相が安倍氏のように、
うまく彼を「あしらえる」かということだ。
安倍氏は、中国の習近平国家主席に対しても、沖縄県・尖閣諸島について直接、「私の島に手を出すな」と言っている。

ウクライナと中東ガザ地区では今も戦いが続いている。だが、台湾有事が起きれば、世界に及ぼす影響は2つの戦争の比ではない。
それが起きた場合、岸田首相が米中の強面(こわもて)リーダーと互角に渡り合えるのか、そこだけがちょっと心配なのだ。
 (フジテレビ上席解説委員 平井文夫)

2024.1/18 11:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20240118-HXDPFJNPSRKIFC6Z5D7QJ6B6AA/