例年ならお祝いムードの中国の春節(旧正月)だが、今年は不穏なムードに包まれている。
1月末から2月頭の中国株の大暴落で、多くの中国人は祝う気になれない。中国版の紅白歌合戦では「台湾上陸作戦」を連想させる演出があり、地方のある村では無差別殺人が起きたという噂も。
多くの中国人は旧暦の大晦日に「除夕快楽」(大晦日を楽しくすごしてね)というメッセージを送りあったが、そこには口には出して言えない、危ない意味が込められていた。
(福島 香織:ジャーナリスト)

今年の中国の春節はどうも不穏なムードに包まれている。中国人の知り合いからも、あまり「新年快楽」「春節快楽」(あけましておめでとう)といった挨拶が送られてこない。その代わり、旧暦の大晦日に「除夕快楽」(大晦日を楽しくすごしてね)というショートメッセージをいくつか受け取った。

 そもそも中国経済があまりに悪いものだから、「おめでとう」という気分ではないのだろう。対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の電子マネー・ウィチャットペイの紅包(お年玉)をチャットグループ内で配りまくるという風景も例年より少ない気がする。

 1月末から2月頭の株の大暴落は「新年株災」と呼ばれるほど激烈なものだった。国有企業チームに国内外資金をかき集めて株を買い支えさせることで、なんとか春節休みに入る直前は反発したものの、多くの中国の小金持ちは、春節どころの気分ではなかっただろう。これは中国の経済政策に対する信用の絶対的欠落が原因にあるので、春節明けにまた一波乱くるのは必至と言われている。

 さらに、不穏な社会事件も続いている。たとえば旧暦の大晦日の2月9日に山東省日照市莒県のある村で、一人の男が村民数十人をナイフや銃で襲い死傷させるという凄惨な大量殺人事件が発生。ただし、その事件は徹底的な情報統制が発動されて一切報道がなく、ネット上で都市伝説のように噂だけが拡散されている。

 どうやら、いわゆる「報復無差別殺人」、つまり自分に降りかかった不条理に対し、社会を無差別に攻撃して恨みを晴らすタイプの事件らしい。そういう事件は中国では決して珍しくなく、どうしてここまで情報統制されているのか、それが逆に中国社会の不穏さを伝えている。

 一説によると、解雇された武装警察の警官が、逆恨みして上官の家族を皆殺しにし、近所の家も巻き込み、救援に駆け付けた救急車の救急隊員も殺害した、という噂だ。あるいは、冤罪で投獄されていた男が釈放後に、自分を陥れた人の家を襲い皆殺しにした、という説もある。いずれにしろ、その村に通じる道路が完全に封鎖されているらしい。

 そしてさらに不気味なのが、毎年恒例のCCTVの春節特番、中国版紅白歌合戦と呼ばれる春節聯歓晩会(春晩)だ。春晩は日本でもYouTubeのCCTVチャンネルで見ることができるのでご覧になった日本人読者もいるだろう。どのように感じただろうか。私は何とも言えないきな臭いものを感じた。

中国版紅白歌合戦の演出は「きな臭さ」満載
 まず、5時間に及ぶ春晩のプログラムの中で、一番話題になったのは解放軍作戦部隊による上陸作戦をモチーフにしたパフォーマンスだった。

 軍用ヘリの爆音とともに兵士たちがロープを伝って舞台に滑り降り、高い壁を乗り越えてみせて、「どこか」に上陸する様子から始まる。そして小銃を掲げた隊列が現れて、軍歌「決勝」を歌いながら、さまざまな陣形を見せるのだ。背景のスクリーンにはミサイルや戦闘機、揚陸艦やタンク、軍用ヘリなど最新の猛々しい兵器が次々と映し出されている。明らかに台湾上陸作戦をモチーフにしたような演出のプログラムだった。

 確かに春晩では、解放軍がほぼ毎年、なにがしかのプログラムで出演している。だが、これまでは文工団(文藝工作団、解放軍のうち、戦場にいかない文職者の軍団。宣伝や慰問のためのパフォーマンスを行うダンサーや歌手、俳優、監督、作家などが所属。少将などの階級はあるが、戦場で戦う軍人とは徽章が異なる)に所属する歌手やダンサー、あるいは儀仗隊などの出演で、しかも新年の晴れ舞台にふさわしい華やかな衣装、軍服正装で登場、祝賀ムードのプログラムが普通だった。

 例えば、昨年の春晩では、文工団の歌手やダンサーが、赤や白、金色の衣装で、プロとしての歌や踊りを披露していた。背景の大画面には空母など勇ましい映像が映し出され、国威発揚がテーマにはなっているものの、さほどきな臭い印象はなかった。

続きはソースで
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79439