遺伝子を書き換えるゲノム編集を施した子どもを世界で初めて誕生させたと2018年に発表し、中国で収監された中国人研究者の賀建奎(がけんけい)・南方科技大元副教授が、毎日新聞のオンライン取材に応じた。賀氏は、遺伝性の難病治療のため、国際的なルールを守った上でヒト胚(受精卵)へのゲノム編集の研究を再開したことを明かし、「やがて社会が受け入れる」と主張した。


【図解でわかる】中国人研究者によるゲノム編集ベビーのイメージ
https://mainichi.jp/graphs/20240401/mpj/00m/040/010000f/20240330k0000m040055000p?inb=ys

 賀氏が日本メディアの単独取材を受けるのは初めて。「生命の設計図」とされる遺伝子をヒトで人為的に書き換えて生命倫理のタブーを破った研究に、賀氏が再び意欲を示したことで、波紋を広げる可能性がある。

 中国メディアなどによると、賀氏は16年から、夫だけがエイズウイルス(HIV)に感染している7組の夫婦について、子への感染を防ぐ目的で、体外受精させた受精卵にゲノム編集を施して遺伝子を改変。双子の女児を含む3人の「ゲノム編集ベビー」を誕生させた。

 賀氏はこの成果を18年に香港であった国際会議で発表し、その後に一時動向がわからなくなった。中国ではゲノム編集のヒトへの臨床応用を禁じており、中国当局は賀氏の一連の研究を違法な医療行為と認定。中国の裁判所で懲役3年、罰金300万元(当時のレートで約4700万円)の実刑判決を受けて服役。22年に釈放された。

 賀氏は取材に、ヒト胚のゲノム編集によって、筋肉が萎縮する「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」や家族性アルツハイマー病といった遺伝性の難病の治療を目指すと主張。釈放後に北京や武漢など中国の3カ所に研究室を作り、研究を再開したという。「(生殖補助医療などで)廃棄されたヒト胚を使い、国内外のルールを順守する」と述べ、現状で再び子どもを誕生させる意図は否定した。

 生まれた3人の子どもの現状については「健康そのもので成育状態に全く問題はない」と説明。3人目の子どもは女児で、19年に誕生したことも明かした。双子は5歳を過ぎ、3人とも幼稚園に通っている。

 その上で「遺伝子配列すべてを解析した結果、医療行為以外での遺伝子の改変はなく、ゲノム編集が安全だったという証拠だ。健康な子どもを欲した家族を助けることができたと自負している」と、自らの成果を強調した。

 一方、当時の研究が世界から非難を浴びたことについては「あまりに早すぎたと反省している」と振り返ったが、なぜ国際的なルールに違反してまで研究を行ったかという明確な説明は拒んだ。【田中韻】

 ◇ゲノム編集

 特定の遺伝子を切断して機能を失わせたり、外来の遺伝子を組み入れ新たな機能を持たせたりする技術。従来の遺伝子組み換え技術が、狙った遺伝子だけを改変することができないのに比べ、より高い精度で改変できる。手法を確立した米仏の研究者は20年にノーベル化学賞を受賞した。ヒト胚に用いることは世界各国がさまざまな制限をしており、子宮に戻したり子どもを作ったりすることは禁じている。

Yahoo!Japan/毎日新聞 4/1(月) 6:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/35b84c7da3e475f6a967493a6258ab8d092b430a