日本時間の4月3日午前8時58分(日本時間)に台湾の花蓮県沖で起こったマグニチュード7.2の地震の被害は、一夜明けても拡大している。死傷者は1000人以上に上り、震源地にほど近い花蓮市では、2棟のビルが傾斜して一部が崩壊。必死の救助活動が続けられている(4日現在)。

(略)

一方、中国も国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮(しゅ・ほうれん)報道官が、「微博」(Weibo)で声明を出した。

<(中国)大陸の関係部門は高度に懸念している。被害を受けた台湾同胞に真摯な慰問を表す。被害の状況と今後を注視していくとともに、救援を行う用意がある>

だが、台湾中央通信社の報道によれば、台湾で中国を担当する大陸委員会は、この申し出を即座に突っぱねたという。

台湾とすれば、中国側の「台湾統一」に利用されることを警戒しているわけだ。

■対中関係を考える上で重要な「花蓮」

こうした中台のやり取りを見ていて、気になったことがある。それは、「花蓮大地震」という名称にもなった花蓮のことだ。

昨年、『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』(講談社+α新書)という本が、ベストセラーになった。著者は、日本の台湾有事研究の第一人者である山下裕貴元陸上自衛隊中部方面総監である。

同書は、実際に中国人民解放軍が台湾統一戦争を起こす時、どのような経緯をたどるのかを、詳細にシミュレーションしている。例えば、台湾本島に「上陸」するシーンは、以下の通りだ。

<予定通り第一波の部隊が台北市・台中市・台南市正面の海岸に上陸を開始した。第一波で上陸した海軍陸戦旅団が多数の大隊戦闘群をもって海岸堡を確保し、第二波の機械化合成旅団などの重戦力を上陸させて空港・港湾などを確保する。第三波以降の部隊は確保した空港・港湾を利用して揚陸させる……>(153〜154ページ)

詳細は省略するが、このように台湾本島の西側に位置する6大直轄市の台北・新北・桃園・台中・台南・高雄は、すべて中国側に占領されるとしている。TSMC(台湾積体電路製造)など半導体の工場群が林立する新竹も同様だ。

そんな時、台湾が「抵抗の拠点」にすると見立てているのが、東部の花蓮なのだ。同書ではこう記している。

<中国軍の侵攻1ヵ月にあたり、花蓮市に移転していた台湾総統府は「中国軍の侵略に対し最後まで戦い抜く。国際社会は中国の蛮行を止めなければならない」と強いメッセージを出した……>(180ページ)

台湾島には、中央部に3000メートル級の台湾山脈が、背骨のように南北に連なっている。台湾側はこの地形を利用し、中国大陸側の西部海岸地帯を占領されても、東部地域を確保して抵抗を続けるというのだ。そして、アメリカ軍などの支援を受けると、山下氏は見立てている。

その際、台湾総統府を臨時で移転させる予定にしているのが、花蓮なのだ。今回の地震の震源地である。

その意味では今回、台湾には「天災をもって人災に備える」という一面もあるのかもしれない。

地震という天災は防げないが、戦争という人災は防げる。台湾有事を現実のものにしてはならないという思いを、地震の映像を見ながら強くした次第である。

2024.4.4 JBpress
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