部屋は、確かに最大の要素だと思いますが、私は「制約」「前提」だと思っています。
プロの録音スタジオや編集用のモニタリングスタジオであれ、ピアノなどや楽器演奏を
楽しむスタジオであれ、結局は、形状や容量、防音、内装や備品などの制約を
受けざるを得ないのだと思います。ある程度の妥協は必ずあると思います。

専用のリスニングルームであっても、そこには何らかの生活があると思います。
無響室が仮に理想だとしても、そこに何時間もとどまり続けるのは正常な感覚で
あれば耐えられないと思うのです。何十畳もある専用リスニングルームにも
お邪魔したことがありますが、その寒々とした空虚な人工的な空間でひとりで
くつろいで音楽を聴けるとは思えませんでした。そこでどう過ごすのかという
生活感が欠如したリスニングルームはつらいと思います。

自分に正直であれば、存外、一人住まいの6畳間とか、ふつうに家族と会話が
できる響きのリビングのほうがくつろげると思います。そこで、好きな音楽を
日常的な営みとして聴くというのが私にとってはオーディオ環境の理想だと思っています。

そういう環境は、再生にとっては常に制約であり、宿命のようなもの。
そこでいかによい音を出すか、というのが、スピーカー選びであり、
そのスピーカーを鳴らすアンプの選択なのだと思います。部屋の制約のなかで、
何とかよい音がでるようなレイアウトを考えたり、家具・調度との折り合いをつけたり、
音響パネルなどの壁面処理の工夫をするのがオーディオの楽しみなのだと思っています。

単なる所有欲から、部屋にそぐわないような大型のスピーカーを持ち込んで
小音量で聴くといった方は、それがどんなに高価で高評価な機器であろうと、
はたから見ると気の毒な気がしてしまいます。