日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
超越論的
ちょうえつろんてき
transzendentalドイツ語

本来「超越」に由来する語で、中世のスコラ哲学では、「一」とか「真」とか「善」
は、個々の述語やカテゴリーを超えた超越論的概念transzendentaliaとされ、ドゥン
ス・スコトゥスはそのなかでも「存在」がもっとも普遍的で根源的な超越論的概念で
あるとした。
 ところで、「超越論的」という語にそれまでとまったく異なった特殊な意義を与え
たのがカントであって、カントは、経験的事物の認識ではなくて、そうした事物の認
識を可能にする条件についての認識を超越論的とよび、経験の対象とはならない理念
についての思弁的な超越的(もしくは超絶的transzendent)認識から区別した。つま
り「超越論的」とは、経験を越えて、経験に先だって経験の成立条件を問う際に成立
する認識という意味であり、その意味をくんで「先験的」と訳されることもある。[宇都宮芳明]