書 評
斎藤幸平著『人新世の「資本論」』
(集英社,2020年9月)
杉 野 圀 明

[マルクスは『資本論』(第一巻)の冒頭で,「資本制生産様式が支配的な社会の富は巨大な商品の集まりとして現れる」と述べ,その
「商品」の二つの構成する要因として「使用価値と価値」を挙げている。
だが,著者は,これを我流に解釈し,「マルクスの用語を使えば,『富』とは,『使用価値』のことである。…それに対して,『財産』は貨幣で測られる。それは商品の『価値』の合計である」(247ページ)と言い,
さらに「マルクスはこれを『価値と使用価値の対立』として把握し,資本主義の不合理さを批判したのである」(同ページ)」とまで述べている。これほど誤った理解はな
い。これは他者から「著者の捏造だ」と非難されても仕方がない。]